小説 | ナノ




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ずっと昔の話だが、ある日俺の目の前に手を繋いで笑いあう男がいた。
蒸し暑い駅のホーム、雨があがったばかりの湿気が纏わり付く空間はイライラして仕方がない。
なのに、なんだあのむさ苦しい男達は、視覚的に喧嘩売っているとしか思えない。
ホームに響くアナウンス、背中から人が我先にと車内へ押し入ってくる。
顎を伝う汗を拭い、人混みに消える例の二人を尻目に俺は車内へと乗り込んだ。



大学生活も二年目の頃、今年度から始めた一人暮らしにも慣れお金の余裕も出来たので、俺はバイクの免許を取った。
高校から通い慣れた道を今はそれで爽快に走り抜ける。
時々見える電車に鮨詰めされた人間を見る度に、なんとも言えない優越感に浸ったりした。
そんな大学生活、俺は大学から最寄りの駅にバイクを止める。

「ったく……まだかよ」

待つのは、高校から知り合いの銀髪だ。

銀髪――銀時は高校からの友達だ。
どっかのヅラ繋がりでたまたま知り合い、話したら意外と気の合う、今となっては最もよく絡んでる、友達、うん友達。
銀時とは友達だ、アイツはどう思っているのか知らないが少なくとも俺はそう信じて疑わない。
いや、疑いたくない。
俺が、そんな、有り得ないだろ?

「おー、高杉すまねー。遅れたー」
「!」

男相手にドキドキしてるなんて!

駅から大学は意外と遠かったりする。
多分距離的には言うほど遠くはないんだろうが、何せ山の上に建つのだ。
しかもこの季節、雨上がりの蒸し暑い朝、歩くにはつらすぎる。
だからってコレを理由に、後ろに乗る銀時は少し前から駅から大学の短い距離を高杉という名の無料タクシーで移動しているのだ。
なんとウザったいと最初は思っていたが、何か最近はそう思わない。
銀時は出会い頭暑い暑いとこっちまで暑くなるぐらい暑いと連呼する。
そんな奴の白い肌を滑る透明な汗を少し、色っぽいと思ってしまったことがある。
お前は体温が低いからキモチイイと纏わり付いてくるその腕が、何だか可愛いとさえ思った。
いつもくだらない愚痴を聞きながら行く短い道も、最近はもっと短く感じる。
本当に一瞬のうちだ、俺の背中とお前の身体が密着している間なんか。

俺は銀時が好きなのかもしれない。
電車乗り過ごした、遅れる。先行ってていいよ。
そんなメールを寄越されたある夏休み前日の朝、俺はふと思った。
だがすぐに撤回、有り得ない。
俺があの、だるんだるんなあの馬鹿を、好き、だと?
どんな冗談だ、笑えない。
そもそも男が男を好きになるなんて有り得ない。
いや、世の中にはそういった男色家が意外にもごろごろいるらしいが、俺は生まれてこのかたそんなものに目覚めた覚えはない。
試しにほら見てみろ、俺の携帯には女とのメールでいっぱいだ。
俺は女が好きだ。
あの愛らしい仕種、柔らかく細い身体、か弱く潤んだ零れそうなほど大きな瞳。
そんな女をこの腕に抱いて自分のものにしてやりたい、って思うほど俺は根っからの女好きだ。
その、はずなんだが。
女とは違う、器用に別けられた別のメールボックス。
そのボックスを開けば、たくさんの女相手にしていたメールの件数以上に銀時とのメールが詰まっていたりする。
何ということだ、これは本意ではない!なんか気づいたら勝手にこうなっていたんだ!
まぁ、別に友達とのメールがいっぱいあったところで何らおかしくはないと思う。
ほらだって実際、銀時以外にだってメールは……。
そういえば万斉とメールしたのいつだったっけ、考えても気が遠くなるだけなので止めた。
そうだ、ヅラはどうだ、アイツとは一応幼なじみなんだがってそうだ、無視決め込んでんだった。
ま、メールの話は置いておこう。
問題は、俺が銀時を好きかどうかだ。
答えは決まっている、銀時は友達として好きだ。
気も合うし一緒にいたら楽しいし、何だか和む。
今となってはアイツのいない世界は楽しくないなと思いはじめた。
だからアイツが大学を休むとき俺は、決まったようにアイツの家へ遊びに行く。
その度に何度か女はどうした、とかって聞かれたが、女とよりお前といた方が楽しいと言ったら一瞬で黙ってしまった。
悪態も言わずに黙り込むなんて珍しい、だが少し俯いて黙るその姿が可愛いと思っただなんて、一生口が裂けても言えないことだ。
とにかく、銀時は一生で一番の友達なのだろうと思う。
言うならば、親友、だろう。
親友、銀時は俺のことをなんと思っていてくれているのだろうか。
他人、では絶対にない。
友達か、それまた親友か、はたまた他に何か。
何でもいい、とにかくアイツの何か特別になれていればいいと思った。
何せ今俺の中の一番、最優先するべき人間はお前なのだから。
俺がこんなにもお前を思い慕い、言っているんだ。
これで他の友達と同類だとか言いやがったら俺は、正直かなり凹むだろう。

「高杉」

不意に肩を叩かれた。
誰だ、バイクにかけた体重を一回離し、声がした方へ振り返る。
そこには、

「先に行っててって言ったのに」

銀時が立っていた。

「銀時、電車はどうした」
「あ?ああ、さっき着いたよ。ほら、15分も遅刻してるぜ?」
「…………」

本当だ、あれこれ考えていたらいつの間にか時が進んでいた。
とりあえず気を取り直して銀時の腕を引っ張ると、バイクに無理矢理乗せて俺もそれに跨がる。

「飛ばすからな。しっかり捕まっとけよ?」
「んー」

白い奴の腕が、するりと後ろから俺の腰に纏わり付いてくる。
そして銀時は一回身をよじり俺の背中にぴとりと密着すると、いいぜーと肩に顎を乗せてきた。
暑いんだよ離れる馬鹿、とはどうやら言えそうにない。
何せ俺の心臓は、なぜかバクバクと暴れていて、今何か言ったら声が震えてしまいそうだ。
そんな格好悪い姿、絶対に見せたくない。

「高杉ー?……暑い?顔赤いぜ」
「……気のせいだろ」

漸く振り絞って出てきた声は、恥ずかしいぐらいに情けないものだった。
ああ、これじゃあ銀時に何言われるか分かったもんじゃない。
俺は銀時が何か言ってくる前に足元を蹴ると、一気にアクセルを踏みバイクを走らせた。

アイツが何を考えているのか、分かるようで分からない。
掴み所がないと言ったらないような男なのだ、よく分からない。
銀時は俺のことをどう思っているのだろうか、それすらも分からない。

いまだに背中から離れる気配を見せない銀時は、ぎゅうぎゅうと腰に纏わり付いて離れない。
大学はもうすぐそこだ、だんだん近づいてくる大学を俺は恨めしく思う。
今日は夏休み前日だ。
明日からは飽きるぐらいの長い休日が待っている。
必然的に、コイツと会う機会も減るだろう。
だから、少しぐらいいいかなって思った。
少し、この二人の関係を揺らぐような質問をしたって、もし何かあったとしても、長い時間が解決してくれるだろうから。
軽率だなとは思わない。
深く考えずに、いつもの調子で、少し。

「俺って、お前の何だ」

少し、でも、お前の近い存在であると信じたかった。

「なぁ、銀時」
「な、何急にお前。変なモンでも食った?」
「食ってねぇよ。いいから答えろ」
「…………」

道の向こうに、大学の入口が見える。
早く早く、二人だけの時間が終わってしまう前に。

「銀時」
「俺は、俺は、……高杉。お前のこと……何よりも好きだと思ってる」
「っ」

一瞬息が詰まった。
呼吸の仕方がよく分からなくなった。
ただ、嬉しいという感情が電撃のように俺の身体を駆け回り、最後に顔をこれでもかと赤くして去っていく。
そして瞬間、コイツが愛おしいと思ってしまった。
本当に、不覚だ。

「なぁ、高杉。絶対に引くなよ。本当に、好きなんだから」
「…………」
「高杉?」

大学の一本手間で一つ道を外れてバイクを止める。
地に足をつけた瞬間、銀時が腰に回していた手を離した。
バイクに二人跨がったまま、俺は銀時へと振り返る。

「っ、」

真っ赤になった顔を片手で隠して、どうやらわたわたと焦っているようだ。
振り返った俺の肩をぐいぐい押し返す銀時は、さっきの告白の勢いはどこへやら、弱々しくこっち見るな死ねよ馬鹿とばかり連呼する。
銀時の顎から、一つ汗が垂れた。
それすらも愛おしい、俺は衝動のままに銀時を抱きしめた。
衝撃でバイクから落ちかけるそれを抱き上げて、俺の目の前に座らせる。
向き合った俺達は、そのまま少し見つめ合って、銀時が視線を逸らす。

「な、何だよ……」
「俺が好きか、銀時」
「う、だ……だからそう言ってんだろ」
「嘘じゃねぇな?本気だよな」
「こんな笑えねー冗談言うか!」
「……馬鹿が」

女になんかしたことない、ましてや男なんかにしたことない、チュッとなった可愛らしいリップ音。

「好きだ、銀時」

ますます顔を赤くさせたそれの唇にもう一度、今度は深く、俺は唇を押し付けた。





Because it is you,I like it.



お前という存在だけを、愛してみせる。





end



―――
かっこよくて可愛い高銀をありがとうございました!霧咲は人生の運を使い切った気がしました(^O^)
こちらこそこんな奴と相互して下さりありがとうございました!
大好きですry
これからもよろしくお願いいたします!

あっこさまより

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