小説 | ナノ





その日は何となく、朝から悪い予感がしてたんだ。土方のモーニングコールで起きたらすでに講義が始まってる時間だったし、お気に入りのいちごパンツは洗濯中だし寝癖もいつもよりひどかった(シャワーしても治らないってどういうこと?)。

適当にバタバタ着替えて講義に出ようとした俺だが、家から出なければよかった、と本当に思った。後悔すでに遅しだが、神様、これは何の嫌がらせですか?



今、反対車線の道路には高校卒業式以来会ってない友人、というか知人、というか仲間、のような家族のような高杉がいた。会ってない、っていうのは少し語弊があって、ただ俺が避け続けてるだけなんだ。だから、気まずいというかなんというか今すぐに逃げたい、っていうか逃げよう。

どうせ今日はもう講義には出席できないからいいや。松陽先生には後で謝っておこう。ごめんなさい、怒らないで下さい。僕は風になります、止めないで下さい。大きなトラックが続けざまに走っていくのを見て、俺は逃げた。



「あっ、おい、銀時!待て!」



高杉が俺を呼ぶ声が聞こえてくるが、今の俺にはアイツに応える事ができない。アイツの声を聞いた時、心臓が有り得ない程ドキンとしたがそれも気にせず人気のない方へ逃げる。きっといきなり走り始めたからだよな。



急いで家へと逃げるように帰る。ごめんな、高杉。でもどうしてもわからないんだ。今まで小さい頃から悪友として連んできたから、恋してる、なんて。

卒業式の時、アイツの所に女たちがボタンを貰いに来たけど、第二ボタンは好きな奴にあげるって決めてっから、って言ってたのは知ってた。

まさか、俺の所に来るとは思ってなかったけど。

その時は冗談だと思って、笑って流そうとしたけど、いきなり高杉の顔が近付いてきて、気付いた時には口の中にイチゴミルク味の飴があった。

しばらくして高杉のべろが俺の口内を好き勝手に動いている事に気付いてからは、恥ずかしいやら驚きやら羞恥やら困惑やら恥ずかしさで気が動転した俺は、高杉の腹に正拳突きをして、一部始終を見てたヅラに高杉を押し付けて逃げた。



なんでヅラは助けてくれないのか(奴は高杉の気持ちを知ってたらしい。いつからだ)、初ちゅうの味はレモンじゃなかったのかよ(少し気持ちいいと感じたのはきっと頭がボーっとしてたからだ)、なんでこんなに心臓が暴れまくってるんだ(走ったからだよ。絶対アイツが格好よく見えたからじゃない)、で頭がぐちゃぐちゃになった。



もうなにがなんだか。後からヅラに、どうするつもりだ、って言われて思ったのは、何で俺はその時に気持ち悪いと思わなかったんだろう、ってこと。



「銀時!」



後少しで家に入れると思った所で高杉に腕を掴まれてしまった。



「っ銀時、何故逃げる?そんなに俺の事が嫌ェか?」

「………」

「逃げられたから追いかけたが、怖がらせちまった…か?」

「……ちがう」

「やっぱり気持ち悪かった、よな」

「…別に、嫌いになんかなってねーし、気持ち悪くもねぇよ」

「そうか。ならよかった。今だから言うけどな、お前の初めては俺が貰いたかったから、色んな奴から遠ざけてた。あの日の事は俺ァ反省も後悔もしてねぇ」



は?なんだ、それ。初めて聞いたんだけど。でも、確かに俺はいつも高杉とヅラと坂本ぐらいとしか一緒にいなかった、気がする。避けられてるとは思ったけどその理由が高杉だったから、って。つかなんで今そんな事言うんだよ。



「実を言うとな、明日から俺家から出されるんだ」

「は?」

「お前も知ってんだろ、俺ん家の事情。離婚だとよ」

「……マジで?じゃあこれからどうすんの、お前」

「聞いてどうすんだよ」

「いや、あ、もし行く宛てなけりゃ……俺ン家に来ねぇか?」

(なっ、何言っちゃってるんだ俺ぇ!?)

「…忘れたか?俺ァ機会がありゃあ、お前にもっといろいろする気だが」

「俺自身、お前をどう思ってるかわからないから、さ、いい機会かな、って思って」

(ちょっと!何せっかくの高杉が出してくれたチャンス無駄にしようとしてんだよ。バカ、何で引き留めようとしてんの?)

「…酷ェな、お前」

「なんで」

「もし、ダメだった場合ダチとして俺を家に置いとくのか?」

「いや、ダメにはなんないって」

「はァ?てめ、どういう意味だ。いい意味で取っていいのか?」

「は!?いや、違っ、違くないけど、まだ、」

「そうか、銀時。ありがとな!……これから気ィ付けろよ?」

「うそ!え?何、マジでお前家来る気なの?つか気を付けろって何!?」

「何って、ナニする気があるからお前ん家に居候すんだよ」

「は!?ナニって、」

「前に言ったろ。ちなみに俺が上な」



おいおい、嘘だろう?どうしてこうなった。高杉を見ると、俺にはすぐわかる。かなり悪い顔、俺ん家来る気いっぱいですね。ええ、そして今から俺はコイツの獲物から生け贄となります。ヅラのやつ…前に近々面白い事が起こる、とか面白いのは貴様以外だ銀時、とか言ってやがったな。このことかよ、アイツぜってーバリカンで坊主にしてやる。



……冷静になれ、俺。普通男に襲われる宣言されたら逃げる所だろう。何受け入れようとしてるんだ(べ、別に期待なんかしてないし!)、これじゃあこれから何が起こっても高杉がいることを認めてるも同然じゃないか。馬鹿!俺の馬鹿、でも高杉の顔が本気で嬉しそうだったからさ、断れなくてさ。久し振りにこんな純粋な笑顔なんか見たら誰でも断れねぇだろ?……え、まさかそれって俺だけ?



でも別に、こいつの事ァ嫌いじゃねぇし、いきなりされたからびっくりしただけだし。外国(オランダだったっけ?)に行けば同性結婚できるし。だけどさ、高杉の事は実際好き、なんだけどそれが親愛か恋愛かわからないだけで。ならどうして逃げたかって?



恥ずかしいからだよ、悪いかコノヤロー。顔を見る度に、飴を舐める度にあの時の事を思い出してしまうんだよ。なんか顔は熱くなるし、心臓は急にバクバクしだすし、そのせいか胸はきゅーって痛くなるし。もう、これが恋なんじゃないかって錯覚してしまいそうなくらい苦しかった。



…………。恋?なに、俺は元からこいつの事を好きだった、ってわけ?俺はどこかに電話をしている高杉をちらっと見る。うん、こいつやっぱり格好いいよな。携帯かなり似合うし、なんか出来る男、みたいな。

とりあえず近付いて、触れるだけのキスをしてみる。拒否反応は全くしない。俺もどうかしてるな。高杉は電話をしながら硬直してしまったようだ。顔から表情という表情が抜け落ちた。面白い。調子に乗ってもう一度顔を近付けたら、電話を切って、どっかのアパートの壁に押し付けられた。車通りはなく、人もあまりいない。これはヤバい、目がかなり本気だ、銀さんピンチ!調子に乗りすぎた!



「テメェ…わかってやってんのか?」

「えー、何の事ぉ?」

「ほぉ、しらばっくれるか」

「うん、わからない」

「今夜からは寝れねぇなァ、銀時」

「……(そういえば下って事は俺が猫?こいつどう考えても一回じゃ済まないと思うのは俺だけ?)」

「楽しみだな」



先生、ごめんなさい。講義をサボった挙げ句俺は未知なる世界に足を掬われました。もう逃れる事が出来そうにありません。明日の講義も、恐らく腰の痛みで受けれそうにありません。ごめんなさい。

まだ言わないけど、恋愛的な意味でコイツを好きになってました。しばらく遊ぶ事ができそうです。バレたら恐ろしいですけども。でもコイツのためなら俺の腰ぐらいどうってことないので許してください、先生。



(金はあるからな、今からキングサイズのベッド買いに行くぞ)

(え、一緒に寝るの?)

(……俺だけのつもりだったがテメェが言うなら仕方ない、一緒に寝てやるよ)

(ちょっとォ!?どうしてそうなるよ!)



―――
ぐあああああっ!!!
なんてすてっきーな高銀なんですかっ(^^)
銀さん可愛いですっ
高杉イケメンですっ
こんなカス咲の為にありがとうございました!

別った道でも結局後で道は繋がる