小説 | ナノ






目の前で其れは其れは怠そうにも苦しそうにも寝込む一人の駄目教師。
コイツを犯してやろうかと一瞬にも頭に過ぎった俺は、其れは其れはめでたい頭をしているんだろうと思う。










時は遡り1時程前。


俺は出来れば一生足を踏み入れたくなかった職員室にいた。


「おーおー、珍しいのお。高杉が職員室にいるぜよ」


ごちゃごちゃとジャンプやらイチゴ牛乳と大きく書かれた大きなパックやらが一面と散らかった机へ足を乗り上げ、俺こと高杉は適当に探し出したジャンプを読んでいた。
あーつまんねェ、と呟けば後方から、聞いとるかのーと聞きたくもない声が聞こえる。

違う違う、俺が聞きたいのはもっと可愛くてふてぶてしい声。


「そこにおっても無駄じゃきに。今日は金八は休みぜよ」
「マジでか」


背中を仰け反らせて坂本へ目をやれば、マジだっちゃとニカリ、笑ってみせた。

その顔ムカつく。

逆さまに見える黒いもじゃもじゃへ舌打ちをすると、そこへ手にあったジャンプを投げつけて代わりに足元の鞄を持ち上げた。


「あれ?学校は?」
「銀八いねぇのなら来た意味ねェの」


ひらひら後ろにいるだろうもじゃ教師へ手を振れば、風邪は移されんよーにのおと一言。
サボることは止めねぇんだと思いながら俺は学校を後にした。








そして冒頭に戻る訳で。


古くも騒がしいアパートの2階奥、高杉は目の前で唸るように汗を流し眠る銀八をただただ凝視していた。
その薄暗く狭い部屋は冷房が付いていなければ電気すら付いていない。カーテンも閉めたまま。

ここマジで銀八ん家?

蒸し風呂ほどではないが、やはり暑い部屋にいれば自然と汗が頬を伝う。
足元に置いたコンビニ袋の中身達(イチゴ牛乳とコーヒーとアイス)もきっと尋常じゃないぐらい汗を拭いているだろう。


(アイスはもう食えねぇな)


風邪をと聞き適当に選んだカップアイスも、今はきっと中身はぐじゅぐじゅに溶けて綺麗な色をした模様など跡形もないだろう。

てか何でコイツこんな部屋ん中で寝てんだよ

おかしい、明らかにおかしい。
まずドア開けっ放とこからおかしい。
最初ドア開いたとき色んな意味でテンション上がったは。

…泥棒とか気にしねぇのかなコイツ

汗で額にくっついた銀髪を掻き上げてやれば銀八は深く眉を寄せ身じろぐ。
だらし無く開けっ放しの口からは、はふはふと苦しそうに息を吐き吸う。


「苦しそうだなァ、銀八ィ」


当たり前に返事はなかったけど、代わりに地を這うような唸り声が耳を突いた。


「……だれ、よ」
「銀八?」


ばっとそれに身を乗り上げ見下ろせば、銀八は白い瞼を薄らと開けていた。
生理的に溜めた涙で濡れる紅い瞳はゆらゆらと揺れながらながら必死に俺を捉えようとする。
ぱちりと俺が一回瞬きをすれば銀八はゆっくりと口を開いた。


「……たかすぎ?」
「よォ、見舞いに来てやったぜ。あとその眼すんげぇそそる」
「…しね」


身体はしんどそうなのに口は減らないらしい。

だがやはり何テンポか遅れてくる返事はやはり俺を心配にさせるには十分で。

ついつい重ねた唇に銀八は小さく肩を揺らした。


「高杉……?」
「もう黙れ。声嗄れんぞ」
「んー…」


ぽんぽんと胸辺りを叩くと銀八は薄く開けた瞼を再度閉じゆっくり息を吐く。

素直だなァなんて思いながらも温くなったコーヒーとイチゴ牛乳と半分溶けたアイスを冷蔵庫に入れて、エアコンのリモコン散らかったテーブルから探し出して冷房をつけて、閉じたカーテンを開ける俺はもっと素直なんだなァと思う。


真っ白いタオルで汗を拭いたあと冷えピタをぴたり銀八の額にくっつけて、ふと壁に立て掛けた時計を見て口を開いた。


「……昼」


どうしよう。

一応家庭的なコイツの台所には米と少しの野菜はある。
が、俺は料理なんてンな面倒臭ェもんに手をつけたこともないし。
カップラーメンでいいかと思ったけど、流石に弱った病人(しかも恋人)にンなもん食わすほど俺も鬼じゃない。


「買うか」


下のコンビニで適当に良さそうなもん探して…。


「いらない」


云々銀八の枕元で頭を抱えていると飛んできたその一言。

てか起きてたのかよ。


「アホか。なんか食えや」
「一食分ぐらい大丈夫だから」


俺が大丈夫じゃないは。

仕方ないから冷凍庫からさっき俺が買ってきたアイスを与える。
そんなに冷たいのがいいのか銜えたスプーンを手前に引っ張ってもなかなか離さなくてなんだか可愛かった。

って口に出したら病人らしからぬチョップ。


「ってえ」
「…黙れこの万年発情期」


虚ろな目で悪態を吐かれても、誘っているようにしか見えない俺は本当に万年発情期なんだろうか。

一通りアイスを食べさせてから薬も飲ます。
市販のでちゃんと効くのかは心配だが。


「…大丈夫だよ、うん」


んな不確かな。

最後に最高の薬だとかと言ってもう一回キスするとまたチョップが飛んできたが、まぁこれは照れ隠しだとして気にしない。
何より朝より元気そうで嬉しかった。


「さっさと治せよ。馬鹿のクセに」
「馬鹿は余計」


取り敢えず元気になったらどっか遊びに行こうか。
それか職員室の机の上を片付けろ。














とにかく早く元気になって



アンタが万全じゃなきゃ

どこにいたって楽しくない





――――――――――end






―――
高誕リクエストで書いていただきました!風邪をひいた銀八を看病する、とっても萌えました(^^)

とにかく早く元気になって