小説 | ナノ



恋だの、愛だのどうでもいい。
自分には一生無縁だと思っていた。







今は、戦中で一日一日、仲間が死に絶えている。そんな中、俺は生きている。


自分は明日を迎えることができるのだろうか。

終わりが見えない戦は、いつになったら終わるのだろうか。

もしかしたら、一生このままかもしれない。


…考えていると、キリがない。



考えることをやめて目を閉じ一息ついた。その時だった。俺の自室の襖が開いた。


「銀時」

声が聞こえる方を振り向くと

「何だ…ヅラか」


ヅラが立っていた。

ヅラの顔を見て嫌な顔を浮かべながら溜息をついた。するとヅラは眉間にしわを寄せた。


「何だ…とは失礼だな銀時」

「んで?何よ、ヅラ」

「ヅラじゃない桂だ。……晩飯の用意ができた」


晩飯?空を見ると黒に染まっていた。先程は夕焼けだったというのに。時が経つのが早い。




だが、どうしてだろうか。腹が空いていない。

…いや、減っているんだが食欲がないのだ。



「…ヅラ、今日もいいわ」


「…今日もか」

難しい表情を浮かべているヅラに苦笑を漏らした。俺が晩飯を食べなくなったのは数日前からのこと。
腹が空いているはずなのに食べる意欲が湧かないのだ。


「………銀時、一体どうしたんだ」

「何が?別に晩飯食わなくても死にはしない。それに戦の時の俺には影響ないだろう」

晩飯を抜いても戦には影響はない、今のところ。

「…、そうだが、…何かあったのか?何か病気でも…」


「ねーよ。俺が病で倒れるなんてことは死んでもねぇから」



「…………」






「ヅラ、今から俺寝るわ」

「……そうか。ゆっくりと休むといい」

桂は薄く笑みを浮かべて俺の髪をクシャリ、と撫でた。

「ん」

腹が減ったら食べに来るといい、そう言い残してヅラは去っていった。
ヅラの姿が見えなくなるまでジッと後ろ姿を見ていた。姿が見えなくなり、俺は自室に戻り襖を静かに閉めた。


そのまま布団に足を運び、ダイブ。
仰向きになり、寝転がる。

(ホント、どうしちまったんだろ俺…)

心の中で呟きながら目を閉じると、高杉が出てきた。



俺はどうして食欲がないのかを知っている。
…自分の気持ちも。



「…恋煩いとか…俺は女ですかあー」


高杉のことをいつから好きになったのかは分からない。コレだ、というようなキッカケもない。


いつの間にか、俺の中に高杉がいた。



得体のしれない感情が『恋』だと気付いたのはつい最近だった。

恋を自覚した時は信じられない、その一言だった。高杉と俺は男だ。それにあんな俺様野郎に惚れるなんて、自分自身に引いた。


男、ということが俺を苦しめた。だからといって女になりたいとも思わない。






この感情は高杉にも、誰にも言わないつもりだ。言った所でどうにもならない。特に高杉には知られたくない。この感情を抱く俺を見てきっと軽蔑をする。もし、この想いを伝えて振られたりしたらたまったもんじゃない。

だから俺はこの感情を誰にも言わず、心の中に封じ込めるつもりだ。この先ずっと。




高杉に嫌われたくない、軽蔑されたくない、その思いが封じ込める力となっている。




(ヅラに迷惑かけちまったな…)




目を閉じて、ひとり眠りについた。










*





「ん………」


目が覚めた。

体に何かが被さっている。手で被さっているモノを見ると毛布だった。


……あれ、俺毛布きてたっけ。



横向きに寝てた俺はゆっくりと体を起こした。ふと、気配を感じ左側を見ると部屋の隅で煙管を吹かしてこちらをジッと見つめている高杉の姿が視界に映った。



「ぅお?!」

ビクリと体が跳ねあがった。



「なっ……なっ…、おま、い、いつ…、へや、何で…!」

驚きしすぎてうまく言葉が纏められない。


「日本語話せよ」


「………」

恥ずかしさと焦りで、心臓がバクバクだ。落ち着け俺!落ちつけ俺のハートォォオオ!!




高杉はぷかぷかと煙管を吸っている。どうしてお前がここにいるんだ。煙管吸うなら外で吸えとか沢山言いたいことがあるが、言葉がでない。



今は、この沈黙をどうにかしたい。



だけど言う勇気がなくて黙りこむ。






ただ時間だけが過ぎた。








「………お前、何で晩飯食わねェんだ」

沈黙を破ったのは高杉だった。

顔をあげて高杉を見ると、煙管を吹きながら外の景色を眺めていた。俺を、見ていない。



「………」

痛い所を突かれてしまった。晩飯を食べないのはお前のせいだよ、なんて言えるわけもなく。




「えっと…、食欲なくて」

えへ。と苦笑を浮かべながら頬杖をつく。



「……そうか」

高杉は特に理由を聞かずにそう答えた。

コン、と自室の塵箱に灰を落とし高杉は立ち上がった。


よし、そのまま部屋を出て行ってくれ。今は高杉といるのが辛いんだ。










....ストン




「は?」

俺は目を見開いた。え、ちょ、え?何この人。立ち去ると思ったら俺の隣に座り込んだ。


なんなのコイツ!




「あの…え?高杉サン?え?」


「…何だ」


「いや、あの、何だじゃなくて…え?何で高杉さんが俺の隣に座っているんでしょうか」


「?何言ってんだお前」


「……え、いや、何でもない」


何意識してんだろ俺。いつもはこーやって二人で一緒に時間を過ごしてた。

だから何もおかしくない。おかしいのは俺の頭だ。



「………お前、おかしくねェか」

高杉はジッと俺見つめる。




―――やめてくれ。俺を見るな



「さ、さぁ…?」

俺は高杉の方を振り向かないようにした。
それに気付いたのか、高杉は眉間にしわを寄せて目を細めた。


「何故こっちを見ない」

この声は、怒っている時の声色だ。

こういうときは高杉の言う通りにすれば何も問題はないが、今は別だ。

俺は何も言えず黙りこんだ。


黙りこむ俺を見て高杉は苛立ちを募らせた。

高杉はチッと舌打ちをして、俺の胸倉を掴んで引き寄せた。俺は瞬時のことで抵抗できずにそのまま高杉の腕の中に閉じ込められた。








「………は?」

驚きを隠せず間抜けの声を出してしまった。



「え、ちょ、高杉…?」


バクバクバク。
心臓が大きな音を立てる。高杉に聞こえるんじゃないかって思うぐらい心臓の音がデカい。

(おさまれおさまれおさまれ!)

呪文のように心の中で呟く。お願いだからおさまってくれ!






ぺろり、



「っぁ!?」

突然、耳元を舐められてビクリと体が震えた。驚きの声を出す前に口を塞がれた。

高杉は口を塞いだまま俺を布団の上に押し倒した。俺の体に跨り、深く口づけをした。そのまま無理やり俺の口をこじ開け、舌を捻じ込む。逃げようとする俺の舌を素早く捕まえて舌を絡めた。


「ん、っぁ…ふ…」

酸欠で、息苦しい。息を吸いこもうとすると甘い声が出た。その甘ったるい声を自分が言ってるんだと自覚をすると凄く恥ずかしくなった。


顔に、熱が集まるのがわかる。





俺はこのキスに抵抗したらいいのか、わるいのか分からなかった。抵抗したら、やめてくれるのだろうか。

このまま続けて欲しいと思う自分と、こんなのは駄目だと思う自分がいる。






そう考えているうちに、高杉は唇を離した。離れた唇をつう、と銀色の糸が繋ぐ。



「はっ、はあ…っ」


大量の酸素を吸いこみ、ゲホッゲホッと咳を込んでしまった。

俺の上に跨っている高杉を涙目で睨む。

「……なん、で…っ、高杉…!」


「何で?……テメーが俺を無視するからじゃねェか」


「だからって…お前…、男にキスするなんておかしいじゃねぇか!」


「……おかしい?なら何でテメーは抵抗しなかった」


「っ!」

肩がビクリ跳ね、背筋が凍る。



「それは……」



言葉に詰まる俺を見て、高杉は口元を上げて笑った。



「…まさか、お前、俺のこと好きなのか?」






―――終わった。

高杉の言葉を聞いた瞬間、終わった、そう思った。


目元が、熱い。やばい、泣く、




「なァ、答えろよ」



「っ……」


ギリ、と歯を食いしばる。






(もう、いい。どうにでもなれ)



「………好き……、だ」


「……いつから」

「………分からない…。高杉のこと、好きだと気付いた時は最近…」




「………最近?」

俺は黙ってこくりと頷く。高杉は口を閉ざし黙りこんだ。



(その沈黙が恐い…)


もう、この部屋から出たい…。どうして自室なのにこんなに息苦しいんだ。

何でもいいから、この状態を何とかしてくれ。どいてくれよ、高杉。





「お前………、甘いなァ」

高杉はそう言ってくっと喉を鳴らした。高杉を恐る恐る見ると嬉しそうに微笑んでいた。


その姿を見て、自失をしてしまった。



気が抜けてぼんやり見つめている俺を見て薄く笑った。


「俺なんて…10年以上だぜ?銀時ィ」




「え……?今な―――」


高杉は俺の言葉を遮るように、触れるだけの口づけをした。ゆっくりと顔を離し、ぎゅっと優しく俺を包みこんだ。



「銀時、好きだ」




本当は、(両想い)




封じ込めていた想いが




今、溢れだす。





―――
恋煩いな銀さん、か…可愛いです!!!本当は両想いって最高ですよね(^^)二人の想いが通じ合うまでの過程が大好きなんです。ありがとうございました!

本当は両想い