小説 | ナノ





「なにこれ?」

高杉の部屋にあった黒い絡繰りを持ち上げ、銀時は聞いた。
刀の手入れが丁度終わった高杉は「あん?」と言いながら、顔を上げる。
愛刀を鞘に納めつつ銀時が弄っている絡繰りを見て「それかぁ」と答えた。

「インスタントカメラとか言う奴だ。馴染みの商人から貰ったもんだが、戦場でどう使えってのやら」

呆れまじりの高杉の言葉に、ふぅんとやる気の無い相槌をうちながら銀時はカメラってこんなんだっけ?と小首を傾げる。

「カメラってもっとでっかくて立派だと思ったんだけど」
「そりゃ本格的な奴だろ。これは簡単に撮れる奴。その分画質が荒いとかなんとか」

適当な高杉の説明に、もう一度ふぅんと銀時は呟くとカメラを置いた。
己の容姿を残すと言う写真やカメラを、銀時は好いていない。
その様子を見ていた高杉は、器用に片眉を上げるとぐいっと銀時を引っ張り胡座をかいた己の膝の上に乗せた。

「ななななに!?いきなり!」

突然の行動に驚いてどもる銀時をくつりと笑うと耳元で囁く。

「撮ろうぜ、写真」

そう言って腕を伸ばし黒いカメラを取ると、固まったままの銀時と自分が映るように顔を寄せる。
パシャ。
光と共に音がした。
カメラの口のような部分から、べろっと黒い紙が出て来る。
音で我に返った銀時が「なにしやがる!」と吠えた。
近くで怒鳴られた高杉は少しだけ顔を顰めると、「記念撮影」と短く答えた。

「記念って何だよ!」
「何でもいいぜェ」

出て来た、と言いながら段々と黒い紙に固まった銀時と薄ら笑みを浮かべている高杉の顔が浮き上がった。
「まぁまぁ?」

高杉は驚いたままの銀時の表情が、それなりに気に入った。

「まぁまぁってどこがだよ!」

返せ!捨てる!と訴えて暴れようとする銀時を写真を持ったまま、押さえ込む。銀時に本気で暴れられたら意味の無い拘束だが、日常では力を押さえる銀時は少し身じろぎしただけで、大人しくなった。

「生憎、このカメラは俺のもんだから、写真も俺のもん」

てめぇもな、と付け足すと白い頬に血が上る。

「これがありゃ、離れても多少淋しさ紛れんだろ」

離れるの言葉に小さく息を飲み、銀時の手が高杉の腕に触れた。

「んな不吉なこと言うな。死亡フラグ立つだろーが」
少しだけ不安そうな声に、ふむ、と考えた高杉はまた銀時の耳元で囁く。

「じゃ、おかずにすっから撮らせろや」
「馬鹿かてめぇぇぇぇぇ!!!」

不安が吹っ飛んだらしい銀時の声に、からかい甲斐のある奴だと高杉はげらげら笑った。

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