『ねえ、チョッパー』

「なんだ?」

『わたし、不治の病かも』


今日は天気が良いから薬用の葉っぱを干してるんだというチョッパーの隣で、わたしも日光浴中だ。こんなに天気が良いというのに、どうしてだろう。わたしの心の中はなんかスッキリしない。


「お、おれに出来ることはねーのか!?」


チョッパーは薬を調合する手を止めて、至極心配そうな瞳でわたしを見た。

チョッパーは立派な医者だ。それは、十分知ってる。何度も傷を手当してもらったことだってあるし、きっとこれからも、そう。

でも、多分これは無理。


「ルフィ!あんたまた勝手にみかん食べたわね!」

「しょーがねえだろ!美味えもんは美味えんだ!」

「美味いかどうか聞いてんじゃないのよ」

「みかんの木がそこにあるのが悪い!」

「反省の色を見せろ、あんたは!」

「いでっ!」


ずきずきずきずきずき。

ほら、こんなにも胸が痛い。昨日、腐った食べ物を食べた訳ではない。睡眠不足な訳でもなければ、女の子の日な訳でもないのだ。

今日も麦わらの海賊団はのどかで、日常にありふれた一日を過ごしているのに。


「ナミの手入れがいいってことじゃねーか?」

「適当なこと言って逃げるつもりでしょ」

「そ、そんなことねえよ」

「いい加減、白状しなさいっ!」

「ギャー!ナミが怒ったー!」


ずきずきずきずきずき。

俯きながら横になってうずくまると、チョッパーが不安そうに背中を撫でてくれた。


「名前…大丈夫か!?いま、薬とサンジに頼んで身体に良さそうなもの持ってくるからな!」


わたしはこの病気の名前を知ってる。

だから、どれだけの薬を用意してくれたって、どれだけサンジくんの作ってくれる料理が美味しくたって、わたしの病気が治らないことを知ってる。

楽しそうな会話がどうしてわたしには悪魔の囁きのように聞こえてしまうんだろうね。みんな大好きだよ。大好きなのに。

数分も立たないうちにサンジくんの心配そうな声が聞こえてきて、同時にチョッパーの足音と美味しそうな香りがした。


「名前ちゃん!大丈夫かい!?いま、あなたのナイトが身体に良さそうな食事をお持ちしました。」

「名前ーっ!痛み止めの薬持ってきたからな!」


サンジくんに背中をさすられながら、ゆっくりと起き上がった。嬉しいのに、その優しさはわたしにはチクリと刺す様な優しさに感じてしまう。違う、違うんだよ。

長い航海で疲れたんじゃないか、とサンジくんは心配そうな顔をしながら、暖かそうな卵粥が乗ったレンゲをわたしの口元に向けた。

けれど、それは瞬く間にわたしの目の前から消えてしまったのだ。


「おま…クソゴム…なにしてくれてんだ!名前ちゃんの為に作った愛の卵粥を…!」


なぜ消えたのか気づいたのは、サンジくんのセリフを聞いたあとで。後ろを振り向いたら、彼が身を乗り出して美味しそうにもぐもぐしていた。


「おれが喰わせるから二人はあっち行ってろよ」


よくもそんな格好でそんなこと言うわコイツ。そこにいた三人が思ったが、それでも真剣なルフィの表情に気づいたサンジはチョッパーを引き連れてその場を離れた。

どうしてルフィはここに来たんだろうと思いながらも、ルフィはどかっとわたしの目の前で胡坐をかいた。粥をすくったれんげを真剣にふう、ふうとそれに息を吹きかける。


「ほら、」


そしてわたしの口元にそれを差し出す。

彼はいたって真剣だ。さっきの自分の一口で大半なくなってしまっていることは気付いていないみたいだけど。

それでも真剣だから、わたしはゆっくりそれを頬張る。


「体調、悪いのか」


その時やっと気付いた。わたしを心配してくれたんだ。わたしのことなんて見てないと思ってたけど、彼はやっぱり船長なんだなって思った。


『ううん、そんなんじゃないけど』


そんなんじゃないけど。

ルフィが他の人と話してるだけで胸は痛いし、ルフィが目の前にいるだけで心臓が張り裂けそうで、苦しい。

きっとこれは一種の病気だ。


「そんなんじゃないけど、なんだよ。おれには言えないのか?」


え、と思い顔を上げれば彼は眉間にしわを寄せて、わたしを見つめていた。


「サンジや他のやつには言えることなのか?」

『え?』

「おれには、何にも出来ないのか」


言い切ったかと思えば彼は下を向き、辛そうな顔をした。なんで?苦しいのはわたしの方なのに。


『全部、ルフィのせいだよ』


膝の上に置いた拳をぎゅっと握った。


『わたしの心臓が痛いのも苦しいのも、悲しくなるのも全部ルフィのせい』

「…おれ、なんか嫌なことしたか?」

『ううん、』

「じゃあ」

『あのね、』




きみが好きすぎて、苦しい




かすかな小さな声。ルフィの耳に聞こえたんだろうか。怖くて、恐る恐る顔を上げればばちりと視線がぶつかる。顔が熱い。


「おれも苦しい、他のやつが悪いやつに思えちまうくらい」


ただの嫉妬だなんて、言いたくないの。もっと苦しくなるくらい、抱きしめて。






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桜夢さま*

大変お待たせしました!何度も書き直してたらこんなに時間が…!
嫉妬×甘ということで、ちゃんと表現できているのか不安で仕方ありません(´`)ちらっとだけでもご覧になって下さればと思います。5万打企画に参加してくださって本当にありがとうございました。

20110330