沈黙。
甲板の縁に座って足はぶらぶら。目の前に続く水面は夕日でオレンジ色に光ってきた。二人でこうしてから、一時間くらいは経っただろうか。結構、緊張してるんだけどな。隣に座ったルフィは何も話さない。「こっち来い」と言われて連れられてきたというのに、ルフィは黙ったまま海を見つめていた。
そんなわたしも何も話せずにいるんだけど。
「なあ」
その時、やっとルフィに話しかけられて驚いた。気持ちを持ち直してから、なにと答えて隣を見たら、まだ海を真っ直ぐに見つめている。
「強くなることはいいことなのに、名前には、強くなってほしくないって、思った」
吸い込まれるように言葉が耳に入り込んできて、わたしの脳内をストップさせた。
「おれ、おかしいのかな」
そう言ってわたしを見つめた瞳はどこか寂しげで、わたしはまた何も言えない。真っ直ぐわたしを見つめているんだけど、ゆらゆら揺れて、不安そうに。
「おれは海賊王になりたいから、勿論もっと強くなりてぇし、他の皆だってどんどん強くなってる。そんなの、当たり前だと思ってたし全然気にしてなかった」
『でも、海賊になったからには闘えなくちゃ、でしょ?』
「そーなんだよな」
じゃあどうして、と問いただしても不思議そうに頭を傾げて「わかんねー」と答えた。
「とにかく、強くなるな!」
『なにそれ…』
「いいか、船長命令だぞ」
とことん勝手な船長だ。普通なら「強くなれ」とか言うだろうに。
『じゃあわたしが敵にやられて死んじゃったらルフィのせいにするからね!』
「…し、死なせねえよばか!」
驚いた様に声を荒げて言うものだからびっくりしたのだけど、ちょっと嬉しかった。そのちょっとがものさしで計ったらどのくらいのものかは分からないけど、なんだか胸が熱い。それと、嬉しくて声が出て笑った。
『はは…!』
「…なんで笑うんだよ、なんか失敬だぞ」
『あは、なんか、嬉しくって…あはは!』
「そうか?」
じゃあおれも笑う!と今度は歯を剥き出しにしてにっかりと笑った。寂しそうにしたり、悩んだり、怒ったり、笑ったり。忙しい人。
隣で笑うルフィがオレンジに染まっていて、眩しかった。
- - - - 20101123
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