海賊 | ナノ





前方にサボ君を発見。エース君と何やら話しをしているもよう。私の存在には……おそらく気付いていない。そうとわかれば回れ右。もと来た道を後戻り。そのまま屋上へと続く階段をのぼっていって、一番上まで来たところでようやく足を止めた。そこで私は一つため息をはいた。

それから、またやってしまったと頭をかかえる。きっと私が逃げていることに、サボ君もいい加減気付いているだろう。人を避けるなんてよくないことだと思うし、サボ君にすごく失礼なことだということもわかっている。だけど、体が勝手に動いてしまうのだから仕方がない。

なあんて考える自分が嫌いだ。心のもやもやを吐き出すように、もうひとつため息をはいた。


私がサボ君を避けるようになったのは、ほんの一週間まえのこと。つい最近まで話したこともなかったのに、ある日をさかいに突然話し掛けられるようになって。
私には今まで男友達がいたことがなかったからその距離感がよくつかめなかった。そのせいか今ではサボ君を見ただけで心臓が暴れてしまう。サボ君はせっかく仲良くしてくれるのに、一方的に逃げ出して、私は最低だ。どんどん自己嫌悪に陥る私。階段に座り込んでから、重いため息をついてばかり。サボ君のことを考えるとどうも脈が落ち着かない。きっと男の子に今まで免疫がなかったからだろうと自分に言い聞かせるのも嫌気がさしてきた。本当は気付いている。私はサボ君のことを好きになってしまったんだろう。でもそれは私が話す男の子かサボ君だけだからであって……。

ぐるぐると頭で考えていたら足音が近付いてきた。誰かがのぼってくる。こんなところで一人座っていたら、さぞ不気味がられるけど、動きにもなれなくて。せめてもと顔がわからないように両膝に顔を埋めた。そうしていたら、足音はどんどん近付いてきた。かつかつとリズムよく弾んだような足音は、とうとうすぐ近くで聞こえて。そのまま屋上のドアを開けると思っていたのに、なぜだか私の目の前でストップ。


「名前さん見つけた。」
「……!」

耳に届いた聞き覚えのある声に心臓があばれだす。怖ず怖ずと顔を上げたら、思っていたよりもサボ君の顔が近くにあって私の顔は一気に熱を帯びる。

「さっき、おれ見て逃げたよね?」
「、や、あの…、」

ぐんっといっそう近づけられた顔。後ろに逃げようとしたら、上半身だけががくりと倒れてしまった。そんなわたしの上に乗りかかったサボ君。私の顔を挟むような位置に手が置かれて、上からじっと見つめられる。サボ君はにこにこと笑っているはずなのに、目だけは笑っていないから、私の顔の熱は一気に下がってしまった。

サボ君、怒ってる。

「名前」
「…は、い、」

いつもよりも少し低い声で呼ばれてぴくりと体が震える。いつもは名前の後にさんを付けるのに、呼び捨てにされて余計にどきりとした。精一杯にぎこちなく返事を返すと、ますます近付いてきたサボ君のおでこと私のおでこがごつんとぶつかった。反射的にぎゅうっとつぶった目。暗い視界にサボ君の声がやけに大きく響く。

「おれのこと嫌い?」
「っ…!」
「名前はおれのこときらいなの?」

ふわりと息が唇に吹きかかった。と思ったらゆっくりと重なった唇。強く押し付けられたのに、ふにゃりと柔らかい。こんな感覚を私は知らない。離れたサボ君はさっきのにこにことは打って変わって、ひどく傷ついた顔をしていた。カッと熱くなった顔を、サボ君の指が滑った。

「ねえ、名前さん。好きな子から避けられるのを黙って見てるほど、おれは我慢強くないよ。」

ちゅう、と今度はおでこにキスをされて、私の上に乗っていたサボ君が立ち上がった。そのまま何を言わずに階段を下りていく。バクバクと心臓がうるさい。まって、サボ君。待って。今の頭では何も考えれない。でも、このままサボ君とわかれてはいけないと言うことは分かる。私はいつも逃げてばかりだから。せめて、今だけ。

「サボ、く、ん!まっ、て…!」

サボ君が階段を曲がろうとしたとき、私の体は勝手に動いていた。だけど、腰が抜けているのか力が入らずにぐらりと体が傾いて。そのまま階段を真っ逆さま。

「っ…い!」

どすんと衝撃が走って、なのに痛くなかった。反射的につぶっていた目をゆっくりと開けると、私のしたにはサボ君が。私を庇ってくれたんだろう。まずはお礼をいって謝らなければいけないのに、今の私はとにかくやけくそになっていた。

「嫌いなんかじゃ、ない…」
「え、」
「私サボ君が、すき。」
「……名前さん。」

ぐっと髪を引っ張られて、私の顔はサボ君の胸にぶつかる。そのままサボ君の腕にぎゅうっと抱きしめられて。

「俺のこと、すき?」
「…う、ん…!」
「そっか。」

ふふふ、とサボ君が笑ったのがわかった。

「俺も好きだよ。」

すぐ近くにどくどくとサボ君の心臓の音が聞こえる。サボ君の心臓の音も私みたいに早い。
しばらくぼけっとサボ君の心臓の音を聞いていたけれど、はっと我にかえる。私は人の上で何てことを…。

「わっ、ごめん。」

慌てて起き上がろうとしたけれど、私の頭はがっちりとサボ君に抱きしめられているから、起き上がることが出来ない。抜け出そうともぞもぞ動いていたらサボ君の腕にぎゅっと力が入った。

「じっとして。」
「え、いや、その。は、はなして、」
「やっとつかまえれたのに、いやだよ。」

そう言ってサボ君は笑う。その言葉で私は抜け出そうとするのをやめた。すごく恥ずかしいしなんだか緊張してしまうけれど、なんだかすごく心地がいいから。しばらくこのままでもいいかもしれない、なあんて思えた。


授業が終わるまで
(こうしてていいよね?)(え、あ、あと40分以上あるよ…!)(むしろ足りないくらいかな。)




* * *
言われたい一言は「おれのこと嫌い?」でした。素敵なリクエストを下さったちゅちゅ様、本当にありがとうございました。




きゃーきゃー!もう!ありがとうございます!さぼ夢頂いちゃいました!!
ましまさんのサボくんを読んだときから、もうわたしはさぼの虜になってしまいました。読んでいてほんとにきゅん!かあああっ…!とくるのです。初めての方は是非ましまさんのサイトへ行ってもっと酔いしれちゃってくださいね!他にも素敵なエースくんやらマルコが見れます!うふふ!
1万打おめでとうございました。これからも応援しております。ありがとうございました!