今日、誕生日を迎えた人。我らが船長。ルフィの誕生日。
「宴だー!」
という誰かの掛け声で、いまは大宴会状態。本人は言われるまで気付かなかったっていうのに。
グラスに入った透明のシャンパンを月に照らしながら甲板を眺めてたら、丁度ウソップとチョッパーが割り箸を鼻に詰めて踊りだしたところで。
ナミはゾロと飲み比べをしていて、その間でサンジくんがなにやら怒っている様子。
ロビンは鴨肉かなんかのソテーを小さく切って上品に食していて。
フランキーとブルックは楽器を持ち寄って楽しそうに歌っている。
なんて平和なんだろう。
あ、主役は口いっぱいに肉を頬張って楽しそうに笑ってる。
幸せだなあ。
誰かの誕生日をこんな風に祝えて、祝ってくれる人がいて。
グラスに入ったシャンパンを飲もうと口に含んだとき、
「名前ーっ!!」
『ぶふっ!!』
「なんだよお前、汚ねえな」
『…び、びっくりさせないでよ!』
口元にたれた水滴を腕で拭いながら、のこのこやってきたルフィを見上げた。
びっくりしたなあ、もう。そのキラキラスマイルは何だ。
かなり大声だったけど、皆全く気付いてないし…!
『どうしたの?』
「名前がいたから」
『え?』
「名前がいたから!」
『え、あ、ああ、そう』
そういうつもりで聞き返した訳じゃないんだけどな。そんなことを考えていたら、ルフィはわたしの隣に座った。右手にはしっかりとお肉を持って。
『楽しそうだね』
「おう!誕生日だからな」
『特にいつもと変わらないけどね』
ついこないだも宴だったし、と笑いながら言ったら、隣からがつがつと肉を食べているらしき音が途絶えた。
わたしは不思議に思ってルフィを見たら、なんとも真面目な顔をしていた。
「そこなんだよな」
『はい?』
「誕生日っていう気がしないでならん!ん?気がしないにならん!…気がしな、しに、す…」
『「気がしない」でいいんじゃない?』
「それなんだよ」
ふふ。やっぱりルフィだなあ。
『でも今日はルフィの誕生日でしょ?』
「それはそうなんだけどよー」
なんだかなー、と首を傾げながらそれでもお肉を食べ続ける姿はなんとも可愛らしい。
まあ、皆もいつも通りだし無理もないかな。
「皆おめでとうとか言ってくれたし、いつもより肉多めにくれたりとかしてくれたんだけどな」
『そっかあ、何でだろうね?』
あ、口の下に肉らしきものが付いてる。可愛いななんて思いながらルフィを見たら、なんとも不機嫌そうな顔をしていた。
『え?』
大きな瞳でわたしをまじまじと見つめているのだけれど、何か不機嫌そうに見えるのは気のせいでしょうか?わわ、なんか口もへの字になってきてる気が…あれ、あれ?
「サンジに肉貰ってくる」
『え、ちょっと待って』
いやいや、なにその意味深な顔!そんな低い声出さないで。
立ち上がったルフィの腕を掴んだら「なんだよ」とぶっきらぼうに言われた。そんな怖い顔しないで。ルフィに似合わないよ。
『ルフィ、誕生日おめでとう』
ごめん。ほんとは全部分かってた。でも、なんか照れくさくて、ずっとこの日を待ち望んでいたけど、直接言うのが恥ずかしくって、中々言えなかったの。きっとわたしの顔、赤い。
知らんぷりしてたのに、一気に糸がほつれてどんどん恥ずかしくなってきた。ルフィはまだ不機嫌な顔をしてるんだろうか。わたしは床を見つめたまま、自分から掴んだ手はふるふると震えてくる。
「にししし!おう!」
夜空には月、君には笑顔
ああ、なんて単純な人なんだろう。わたし、ルフィの笑顔が大好きだよ。不思議とわたしも笑顔になって微笑み返した。
「なんか、よく分かんねーけどすっげえ嬉しい」
誕生日、おめでとう。その笑顔一つでわたしは幸せになれるよ。
おめでとうをただ言われたくて。遅れてごめんよルフィ、誕生日おめでとう!いつまでも笑っていてね。
- - - - 20110505
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