「名前、眉間にしわ寄ってるぞ」
ああ、いらいらする。いらいらするっていうか、むしゃくしゃするっていうか、もやもやするっていうか、なんなのか。
でも原因は分かってる。
「なあ、さっきから顔怖えーぞ」
全てこいつのせいだ。
わたしの顔はいま最悪だ。眉間にしわを寄せてものすごく不機嫌な顔をしていると思う。
目の前の男は構いもなしにわたしの顔を覗き込んで、にしても変な顔だなーと言う始末。おいこら、それがレディに向かって言う口の聞き方か。
こいつの素直すぎるところは毎回困らせられる。
さっきだって、上陸した街で何人の女の子があんたに惚れたか知ってる?
素直すぎる言葉が、屈託のない笑顔が、たくさんの人を惹き付けてるんだよ。それは間違いなく、他の仲間である皆も、自身であるわたしも。
だけど、こいつは惚れられてることにも気付かないし、その上天然タラシな発言をぽんぽんと。
なんか、いらいらするの。
「ルフィって、馬鹿すぎる。もっと、考えて行動してよ!」
顔を上げたら、目を丸くしてぱちくりしている。
そんな今更なこと。それを分かった上で仲間になって、そんなとこに惹かれてここにいるのに。いらいらした気持ちが追いやるように、それはわたしの口からぽろりと出た。
「それは無理だな、おれ考えすぎると頭痛くなるもんな」
『単純だし、騙されやすいし』
「そうかー?」
『ルフィは分かってない』
わたしひどいことばっか言ってるなあ。それも含めてどんどん悲しくなって体育座りをしたまま顔を膝に押し潰した。
わたしはクルーだから。「仲間」であってそれ以上でもそれ以下でもない「仲間」なのだ。
こんなこと言える権利もないし、こんな自分に一番いらいらしてる。
頭に暖かい温もりが広がって、それが掌だと気が付いたのは言葉が降ってきた瞬間。
「なんか嫌なことあったのか?言えよ?」
悩み事って言ったっていつもルフィのことだよ。乗せられた掌が暖かくて、優しくて。
「腹減ってんのか?そうだ!サンジに頼んで肉貰ってきてやるよ!」
いらいらしてる自分が馬鹿らしくなる。ルフィはルフィでルフィらしく生きているというのに。
立ち上がるルフィのズボンを引っ張って見上げた。
『肉いらないから、ここにいて』
すぐにでも走り出そうとしたポーズのまま、しばらくわたしを見つめて、何か分かったかのように笑ってもう一度しゃがみこんで、その輝いた笑顔をわたしに向けた。
「おう、いいぞ!」
その笑顔が眩しくて、わたしは目を背ける。そういうのだよ、馬鹿。
嬉しそうにわたしの頭をくしゃくしゃに撫でるから、なんだかすごく悔しくて思い切りルフィの顔を睨み返した。
なんだよ照れてんのか?顔真っ赤だぞ。だなんて言うからもう一度顔を膝に押し潰した。
それでもわたしはまた君に恋をするの。
『う、うるさいなあっ!』
「なんだよおれにそばに居てほしいんじゃないのか?」
『わーっ!!も、もう!うるさい!』
- - - - 20110520
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