海賊 | ナノ






ぼんやりと青い空を見上げてただ眺める。

夕食のメニューは何だろうとか、明日の天気は何だろうとさえ思考が及ばない。

ただ、頭がぼうっとしたまま空を眺めた。


「名前」


名前を呼ばれた気がして振り返ったら隣に不思議そうな顔をした船長がいた。

何だろう。そう思ったけど、それを口にしないまま瞬きを一度した。


「泣いてる」


すっと彼の手が伸びてわたしの目元を指で撫でる。

ああ、わたし泣いてたんだ。その時やっと気付いた。どうりで空が悲しそうに見えた訳だ。

ぽろぽろ零れる涙を彼は何も言わずに拭った。そして床に置かれた本に目を見遣ると「こいつか」と静かな声でそう言った。

一人の男の子が村を襲う怪物に立ち向かって闘うお話。その姿は健気であり逞しく、美しかった。だが、勝負には勝つものの彼の負った傷は多く、死んでしまうのだ。

大切な人たちを残して。

それがどうしても、わたしにはルフィと重なってしまって想いが止まらないんだ。いつかそうなってしまう時が来るんじゃないかって、わたしたちを置いてどこか遠くへ行ってしまうんじゃないかって。

怖いの。


「そんな悲しい本なのか?」

『良い、お話なんだけどね』

「だからって泣くなよな」


ぽつりと呟くような声に反応しながらも、これでもかと溢れ出る涙を拭ってくれる。とてもやさしく。

いつだってわたしたちを守って立ち向かっていくから。どんなに強い相手だとしても。たとえ自分に敵いそうにない相手だとしても。

ルフィは怖くないの?

わたしは、怖いよ。


「泣いてほしくなんかねェけどよ。綺麗だな、名前の涙」


ルフィの肩に顔を埋めた。動きが一瞬止まった気がしたけれど、ゆっくりわたしの背中に手が添えられて慣れない素振りでさすってくれる。

わたし、馬鹿だよね。こんなこと考えて。ルフィはいるのに。今、こうして目の前にいるのにね。死ぬことなんて、海に出たときから覚悟は出来ているはずなのに。

それでも、ルフィがわたしたちを思ってくれてるように、わたしもルフィのことを想ってるから。

いなくならないでほしい。

ルフィの心音がわたしの胸のあたりに響く。それがとても気持ちよくて、心地好くて。困るって分かってるのに、少しばかりの力を込めてぎゅっと抱きついた。


「名前は泣き虫だなー。でも落ち着くまでこうしててやるからな、おれはいなくなったりしねェからよ。」


ルフィがわたしの気持ちを分かっているのかは知らない。そこに深い意味はあるのか、ないのか。

ただ、分かるのは、泣きたくなるくらい君が好きだということ。







涙なんていっそ乾いてなくなってしまえばいい。そうしたらきっと君がまた潤いをくれるから。





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20110205