寒い。寒すぎる今日の夜は。
ナミによると秋島に近づいているらしいから、寒い風が吹き始めてるんだろうけど。寒いよ今日は。 どうしてよりによって見張りになってしまったんだろう。毛布とミルクティーでも持ってこようと思い見張り台を降りることにした。
時計を見ると深夜の三時。まだまだだなあ。
「あれ、名前」
『ルフィ?』
マグカップにお湯を注いでるときだ。キッチンの扉が開いてまさかの人物が立っていた。だって、絶対起きてこないような奴だから。
『どうしたの?』
「腹減って眠れねえんだ」
『なんだ』
ふむ、それなら納得がいく。お前は、と聞かれたから見張りだよと答えれば「ふーん、大変だな」とだけ返事をして辺りをキョロキョロし始める。食べ物でも探してるんだろうけど、ないと思うな。
『ミルクティー作ったけど、飲む?』
「!、おう!」
『いま淹れるね』
「目覚めちまったし、おれも見張りしよーかな!」
ルフィと二人っきりって初めてかも。テーブルで嬉しそうにしているルフィをこっそり笑って、角砂糖を一つカップに落とした。ミルクを入れたら染みが出来たようにじわりと広がった。
『できたよ』
二つのカップをトレーに乗せて振り向くと、嬉しそうにとことこついてきた。なんか可愛いな。ルフィから見張りをするだなんて、よっぽど眠くないんだろうな。大雪でも降らないといいけど。
そして、扉に手をかけ開けると、勢いよく風が入り込んできて思わず髪の毛を押さえた。
『さ、さむっ!!』
「風強いなー」
『てか、ルフィそんな格好で寒くないの!?』
「え?ああ、」
よく見てみるといつもの袖なしの赤い服に、膝丈のズボン。絶対、季節感間違ってる!
「寒いかも」
『か、かもじゃないよ!風邪引くよ?』
「その時はその時だな!」
『…呑気ね』
もう一度強い風が吹いて思わず肩が上がる。やっぱり今日はとても寒い。冷めないうちに早く見張り台に行こう。
『寒いや、早く行こう』
トレーを持つ手を持ち替えて歩こうとしたとき、何かに掴まれ体がびくりとした。その正体なんてすぐ分かったのに、名前を呼ぶと更にぎゅっと引き寄せられた。
「こうしたら寒くねえだろ」
そんな格好の人にそんなこと言われたって説得力なんてものないんだけど、きっと寒がってるわたしを心配してくれたんだ。そう分かった瞬間嬉しい気持ちになったけれど、なんだか恥ずかしくもあった。…だって、ルフィだよ。
顔は見れないけど、真面目な声なものだから更に調子が狂う。
手の平で優しく肩を摩られる。なんでか分からないけど、摩擦されたところが暖かい。
うちの船長はアホだ。
何を考えてるのかいまいち分からないし、突拍子のないことをよくする。良い意味で自分勝手だし、頑固だ。時々、核心を突くようなことを言うしルフィの言葉に惹かれることは事実。だけど、アホだ。
だけどいま、初めて知ったことがある。
『ルフィって、優しいんだね』
そう言ったら、引き寄せられてる力が強くなって熱くなった。
ミルクティーでもいかが
眠れない理由も、部屋に戻りたくなかった理由もお前は分かってないんだろうな
- - - - 20101027
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