「おかしいな…おれ、熱なんて引いたことねぇのに」
「バカは風邪引かないっていうけど、バカは風邪引いても気付かないのよ」
そう言って額をぱちんと叩くと痛ぇ、と自分の額を摩った。ゴムのくせに。
うちの船長は風邪を引いた。化け物みたいに元気な奴だからまさか、と思ったけど身体はまるで茹でタコのように熱かった。
きっとこの間、冬島でいつもの格好で走り回ったからだろう。
「にしし…!」
『何笑ってんの』
ついに頭までもやられたか。彼は汗をかいた肌を光らせながら、嬉しそうに笑った。
「風邪もいいもんだな」
『どうして?』
「名前が一緒にいてくれるだろ」
顔が熱くなるのが分かってそっぽを向こうとしたら腕を掴まれた。心なしか、熱い。それがどちらの熱かなんて今は分からないけど。 そっち向くなよと、真面目な顔をされた。何回こいつに心臓まるごと捕まれているだろう。わたしを虜にさせる言葉を知っているその口を針か何かで縫い付けてやりたい。
「ここにいてくれよ」
熱っぽい潤ったその瞳がわたしを離さない。
そんな風に言われて嫌だとは言えなくて。言えるはずがなくて。下を向いたままこくりと頷くとまた嬉しそうに笑った。
お願いだから、これ以上鼓動を早くさせないで。
でも、その笑顔が好きだから仕方ないか。
三十八度五分
熱っぽいのはわたしの方かもしれない
- - - - 20100927
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