「…おいしい」
そのときの表情がやけに印象的だった。この船の仲間になって初めておれの料理を口にしたとき、ほんとに美味そうな顔して可愛く笑ったんだ。
おれの料理を喰ってまずいなんていう奴はまずいなかったし(いたらぶっとばしてるが(男のみ))、喜ぶ奴がほとんどだ。だがなんだか、そのときはすごい嬉しかったんだ。漆色の綺麗な瞳をキラキラさせて食事をする彼女が、なんかすごい可愛かった。
そんなことを思い出して今日の仕込みをしているとそんな可愛い彼女がやってきた。
『サンジくん!何か手伝おっか?』
「レディーの手を汚すわけにはいかないよ」
『そんなこと言わないで、わたしがやりたいの!』
「そうか…ありがとう」
美しいレディーにはメロリンなおれだから、ナミさんにも、ロビンちゃんにも、そして名前ちゃんにも平等な愛を振り撒かなくちゃと思っている。なんとなく。いや、そうなっちまうんだが。
だが、名前ちゃんを目の前にするとその考えはもろく崩れてしまうんだ。
「じゃあ…じゃがいもを洗ってくれるかい」
『うん!』
彼女はいつも柔らかく笑う。綺麗な髪をふわりとさせてにっこりと笑うんだ。おれはいつもそれに耐えられない。目が離せなくなる。一人の女性として扱ってしまうんだ。 暇があればこうやって来てくれるから、きっと家事とか好きなんだろう。家庭的な女の子だ。
『サンジくん?』
「あっ、なんだい?」
『目が点になってたよ』
くすくすと笑いながら、綺麗な手の平でじゃがいもを洗い流してゆく。
細くて綺麗な指で奴は上手いこと転がされていて、まるでおれを嘲笑うかのように水をはじく。じゃがいもになりたいだなんて初めて思った。
そして次はどうすればいいの、だなんて可愛く聞いてくるもんだから皮を剥くのを説明しようと手を伸ばした。
普通に考えればそれは何のことない話だ。”料理”なんだから。そうしなければ説明できないし。
手と手が触れてしまったんだ。
ぼちゃん。
じゃがいもが水の張ったボールに落ちた。触れてしまった指先が途端に熱くなって、耳までも熱くなった。
「ああっ、ご、ごめん」
何やってんだおれは。名前ちゃんは”手伝い”のためにここにやってきてくれてるというのに。慌ててボールに手を突っ込み、じゃがいもを取り出して名前ちゃんを見て、言葉を発そうとした瞬間だ。おれの心臓はもう一度どくんと飛び跳ねた。
ああ、これが恋か
そんな真っ赤になることないじゃねぇか。
- - - - 20100917
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