海賊 | ナノ





苦しくて目が覚めた。今日は天気が良かったから甲板のフサフサな芝生の元でごろんと寝そべってお昼寝をしていたのだ。波の綺麗な音をバックにしてとても気持ちのよい一時だったというのに、強い包容力により起きてしまった。


「お前なんか忘れてんじゃねぇのか」


誰かだなんて確認はしない。首に回された目の前にある腕。丸く切られた指の爪。肌の色とか匂いとかそういうのでたいてい分かってしまうものだ。唯一不思議だったのがいつもの元気な声ではないその低い声。


『なんだろ?』


抱きしめられていたのはわたしの方なのに、回されていたその大好きな腕をぎゅっと抱きしめてわたしの胸に仕舞い込んだ。


「ずりぃなぁいっつも」


今度は不満を漏らすような拗ねた声。それがどうしても愛しく思えてしまってくるりと回ってルフィの首元に顔を埋めた。


『ウソだよ、誕生日おめでとう』


嬉しそうに笑った声が体全体にまで伝わって震えた。右の手の平で後頭部をぎゅっと押されて二人の間に隙間なんてものはなくなった。ちょっと苦しくて痛いくらいの力。だけど気持ちいい。これをマゾというのならそれでもいい。わたしはルフィにこうやって抱きしめられるのが大好きだから。


「今日はおれの日だからずっとこうだからな!」

『ずっとはちょっとキツいかな…』

「安心しろ」


手の平の力が小さくなってようやく顔を見ることが出来た。見上げるとルフィはやっぱり笑顔で、嬉しそう。さっきまでふて腐れていたことなんてもう覚えていないんだろう。でもしかし本当に嬉しそうだ。


「明日もおれの日だからな!」

『え?』

「ゴムの日だ!」

『5月6日…56…ゴム…。』

「しししっ!」


ずるいのはいつもルフィだよ。でもこうやって抱きしめてくれるのなら、嬉しいかも。ずっとルフィの日でもいいなんて思ってわたしも精一杯抱きしめ返した。




Happy Birthday to Luffy.
20100505