仲間になれ、と言われたときも確かそうだった。わたしは小さな村の只の娘に過ぎなくて、強くもなければ何か取り柄がある訳でもなかった。
どこにでもいる一人の女で自分があの海賊になるだなんて夢にも思ったこともなかった。だけどわたしに仲間になれ、と言った船長はわたしが固く思い描いていたような人物ではなくて、屈託のない笑顔を向けたのだった。
『だって、わたし強くない』
「強くなくたっていい、お前と一緒に旅がしたいんだ!」
そんな理由で。どこに惹かれて。どうしてわたしが。今思えば、それはこの船のクルー全員は抱く疑問であるが、答えを追い詰めようとしなければ、追い詰めたところで彼の決断が揺らぐことはないのだ。
船長らしいっちゃ、船長らしいのかもしれないけど。
バッシャン!
その時、船首の方で大きな水しぶきのような音が聞こえた。何やら嫌な予感がして走ってゆくとすでに彼は救い出された後で、笑って見守っている考古学士もいれば走り回って心配している子たち。愚痴をこぼしつつも救出した様子のクルーたち。鉄拳を食らわす航海士もいる。
それなのに、彼は笑っていた。
『ルフィ』
「おう、名前」
『大丈夫?』
「ああ!水面からよ、でっけェ海王類が見えたんだ。だから昼メシに出来っかなーと思って手伸ばしたんだけどよ、気付いたら落ちちまったんだ!すげーだろ!」
「自慢することか!」
白いバスタオルをかけてあげながら話を聞いてると隣からナミの鉄拳が再びやってきて、ぶへと声が漏れた。
「ありがとな、名前!」
『ダメ、まだ体冷えてるよ』
「大丈夫だ、肉喰ったら暖まる!」
気付くと皆はぞろぞろと甲板の方へ戻っていて、ルフィも立ち上がった。
「な?大丈夫だ!」
突然、屈伸やジャンプをして見せて元気だということを見せ付けた。ほら、やっぱりその言葉は魔法みたい。
何でなんだろう。ルフィが大丈夫だって言うと全部がそう思えて、何でか分からないけど胸がホッとするの。あ、大丈夫だな、って思えてしまうの。まるでその言葉を求めていたように。全然大丈夫なんかじゃないのに、根拠も何もないっていうのに、大丈夫な気がしてしまうんだ。
あの時もあなたは言ってくれたでしょ。
「大丈夫だ!だから仲間になろう!」
わたしには何もなかった。それは事実。でもその言葉があったから、わたし自信持てたんだと思うの。
『ルフィはいつでも自信満々だね』
「なんか、名前が笑うと大丈夫な気がするんだ」
『わたしが?』
「ああ。ほら、おれが仲間になって欲しいって言ったときも名前、笑ってただろ」
『…』
「だから絶対名前となら楽しい旅になるって思ったんだ!」
二本の指で帽子の翼を深く下げながら、しし、と笑った。
「そうなってるだろ?」
『…うん!』
ほんとに不思議。いつも勇気をもらってるのはわたしの方なのに。これでもか、と頬を持ち上げてにかっと笑う笑顔が眩しくて、わたしもつられて笑った。そっか、言葉とか気持ちとかそういうんじゃないんだ。
笑うきみが太陽みたいだった
その笑顔に惹かれたんだ。
- - - - 20100521
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