「金がない」
そう言いだしたのは料理全てを食べ終わった後だった。ルフィから飯喰おうと誘ってきたというのに、金がないとはなんて野郎だ。しかしわたしもお金のことなんて何も気にしなかったし、持ち合わせもかった。
どうやってこの状況から逃れようか。そしてウソップを呼んできて払ってもらおうかなと浮かんだときだ。なんともまあ素敵なセリフが降ってきた。
「よし逃げるぞ!」
『…へ!?』
「にししっ!」
『わっちょっと待ってよ!』
すると突然ルフィはドタドタと先に店を飛び出して行ってしまった。
「こらぁ!逃がさんぞぉぉ!!」
お店の店主が大声を張り上げ立ち上がるのを見て、わたしもこれはヤバイと思いルフィの後を追った。
「こらあぁ〜!!小娘も逃がさんぞー!!」
や、やばいよ!あの店主、ただのオッサンかと思ってたけどすごい速さでで包丁振り回してるよ!
『てか…、ルフィったらどこまで行っちゃったの!?』
店を出たのに差ほど時間はなかったはずなのにルフィの姿が見えない。速すぎだよ…。こんな知らない街で乙女を一人にするなんてー!
『はぁ…はぁ、もう…無理』
「おっ名前!お前こんなとこにいたのか!探したぞ!」
一人息を切らしていると木の上からひょっこりと顔を出して、当たり前かのようにわたしにそう言った。
『…ルフィ!!探したのはこっちのセリフで…』
「見つけたぞ!!逃がすかー!」
「おっヤベーな」
ああ。先程の店主が今度は巨大なのこぎりを持ってこちらに向かってきている。もうダメだ。わたし走れない…。さよなら、わたしはミンチにされるようです。
「何してんだ名前!走るぞ!」
『わたし…もう無理!』
「なにぃ!?しょうがねぇなぁ」
しょうがねぇなぁ、って全部あんたのせいだっつーの!しかもわたしはルフィみたいに化け物じみた体力持ってないんだからね!そんなことを思っていると腰に手を回されぎゅっと引き寄せられた。
『えっ?』
「よし!走んぞ!」
まるで二人三脚のように。いや、二人三脚なんかよりももっとたちが悪かった。軽く抱きしめられながら一緒に走っている状態。もう体力なんてないはずなのに足は勝手に動いてしまう。つまりルフィのスピードで走っているのだ。ほとんど身をルフィに任せているためか全然苦ではなかった。
『…すごい』
「ん?何だ?」
『ルフィっていつもこんなスピードで走ってるんだ』
「しししっ!そうだ!気持ちイイだろ!」
少し顔を上げるとすぐ近くにルフィの顔があって心臓がドキンと鳴った。こんな近くで見たのなんて初めてで、なんだかカッコイイ。前髪はサラサラと風で靡いていて、とても気持ち良さそう。不覚にもルフィに見とれているとわたしに気付いたのか、パッと振り向いた。
「何だ?」
『…わっ!な、何でもない!!』
「何だよー気になるじゃんか」
『い、いいから早く走って!』
「ダメだ!言わねぇとちゅーすんぞ!」
『はっ…!?』
こ、こいつ…ちゅーの意味分かって言ってんのか!?しかも使い時違うだろ!
「ほら早く!」
『…うっ』
キスされたくない訳じゃないけど、きっとキスされてしまう方がきっとご愁傷様だ。なんだか悔しいけどゴクンと唾を飲み込んだ。
『る、ルフィがカッコよすぎるから見とれてたの…』
「…にししっ!そうか!」
ああダメだ。そんな風に笑うからまた見とれてしまう。恥ずかしくて俯いていると、額にチュと小さい音が鳴った。
『っな!!わ!!ちょ……!!!!』
「チューだ!」
『…るるるるふぃ!?』
「にっしし!お前ほんとに面白れぇな!」
こいつの天然さには付いてゆけない…。口をぱくぱくさせたわたしを見ると更におかしそうに、顔赤いぞと笑った。
キスの代償
この気持ち、責任取ってよね
- - - - 20100429
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