『真夏の遠泳たいかーいっ!!ゴールは、あの小島!ビリの人は罰ゲームで一発芸ね!』

青空の下、わたしの声が響く。

「アホくさ、遠泳大会って小学生かい」
「しかも一発芸なんかやんのかよ…」
「つべこべ言うなや!勝てばええねん!」
「そーだよーっ!あれー、拳西、もしかして自信ないのぉー?」
「んだとテメェ!ぜってぇ負かしてやるかんな!」
「あのー、ワタシは泳げないんデスが…」
「ハッチはボートで審判しとき」
「僕もできれば審判がいいなぁ…」
「オメーまだ一回も海らしいことしてねぇだろうがよ」


遠泳大会は今日のメインイベント!
午前中はわいわい、ビーチバレーしたりスイカ割りしたり楽しんで、午後はみんなでしっかり泳ごうってことになってる。(まぁわたしが決めたんだけど)
カナヅチのハッチはしょうがないとして、あとはみんな泳げるから強制参加。
せっかくだし、みんなで勝負しないと楽しくないもんね!
嫌がる真子とかローズも、パラソルから無理矢理引っ張ってきた。
わたし球技は嫌いだけど水泳だけは得意なんだよね!
スイミングスクールも通ってたし。
よーし、負けないぞ。
特に真子にはさっき頭突きされたぶん、仕返ししてやんなきゃ!

「みなサン、準備いいデスか?」
『おっけー!』
わたしたちが横一列にならび、"位置について"の体勢をとるのを見て、ハッチが言った。
「それではいきマス…用意…スタート!」
ハッチの合図で、みんな一斉に海に飛び込む。
水しぶきが上がって、わたしの視界は青に包まれる。

小島までは1km程度。
わたしにとっては楽勝!
小学生の頃はもっと長い距離泳いでたもんね。

途中で少し止まって後ろを振り返ると、やっぱりわたしがトップだった。
けど、意外と差がない!
やばっ、白とひよ里速いなぁ…
げっ しかも拳西が必死で白のこと追い掛けてきてる…
負けちゃう!泳がなきゃ!
わたしはもう一度海に潜り、泳ぎ始めた。
やだやだ、負けたくない。
全身の力を振り絞って、小島を目指した。



『ーぷはっ!!』

小島の岩場、ゴール地点にタッチし水面から顔をあげると、太陽が眩しくて目を細めた。
それとほぼ同時にひよ里、白、拳西がゴール。
あー、本当に危なかったんだなぁ…

「あーくっそ!あともーちょいやったのに!」
「名無したん速いよーっ!!」

二人の顔を見れば、悔しさが滲み出ているのがよくわかる。
それを見て1位だったという喜びがじわじわ湧いてきたのと、自慢してやりたいという気持ちがムクムク。

『ふたりとも気迫が怖いよ…まぁでもわたしが勝ったけどね〜!拳西男のくせに情けないなぁ!』
「あのなぁ、本当だったら俺余裕の一着だぞ?白が妨害してきたんだよ!」
「やだー拳西ぇ、男のくせに負け惜しみ?なっさけなーい!」
「拳西しょーもなッ!まぁ相手がウチやったら当たり前やな!」
「うるせーよおめーら!!」

そんな言い争いをしてる間に、続々とみんながゴールしてきた。
ラブ、ローズ、そしてビリは真子。
真子の奴絶対手抜きしたな、この野郎。
全然息切らしてないもん。

『真子、ビーリー!一発芸をそこの岩の上でどうぞ!』
「はァ?ホンマにやんのかいそないなこと…」
『当たり前でしょ?手抜き真子くん ♪』
「俺をなんやと思っとんのや…イケメンが台無しやろ…」

とかなんとかブツブツ言いながらも岩に上った真子は、何を始めるかと思えば

「ひよ里のモノマネすんでー」

と言った。
そしてひとつ、オホンと咳ばらいをし、

「シンジのハゲクソッ!カッパッ!!」

と完全にひよ里をバカにした甲高い声で、しかもご丁寧に振り付きでモノマネをした。

…うん、ひよ里、ごめん。
ちょっと面白い。
吹き出しそうになる口元を抑えて周りのみんなの反応を見ると、みんなやっぱり同じように口元を抑えて肩を小刻みに震わせている。
いやだって、おもしろいんだよ。
しょうがない。
そう思いつつ必死に笑いをこらえていると、私の目の前を光の矢のような速さでひよ里が通過し、あっと思った瞬間、真子の頬にひよ里の右ストレートが炸裂した。

「何しとんじゃこのクソハゲがぁーーーー!!!!!」

美しい空の蒼が、真子の血によって赤に染まって行く。
あぁ…南国まで来てこれか…

「成長しねー奴らだな」

二人が殴り合っている横で、ラブが呆れを交えながらそう呟いた。

『うん…まぁ、真子がモノマネって決まった時点で薄々感づいてはいたけど』
「じゃあなんでやらせたんだよ?」

どうしてやらせたか?
いや、そんなの最初に決めていたから…、っていうのと。

『わたしさ、真子とひよ里が殴りあってんの見るの好きなんだよね』
わたしの言った台詞に驚いたのか、若干ラブが引いた顔をして
「…は?オマエどういう趣味…」
と聞いてきた。
『いやちがう、血を見るのが好きとかそういうことじゃなくて!あの二人って、私たちの象徴みたいなんだよね。いろいろケンカとかするけど、みんなお互いのこと好きでしょう?』
「あぁ…そうだな、あいつらなんだかんだ仲良いからな」

うまく言葉にできないけど。
それでもわかってくれる。
この感じが本当に好き。

『わたし、本当にこのメンバー好きなんだ。ずっと…ずっと仲良くしたいの。今のこの関係が心地よくて。今のままみんなといられるなら、彼氏とかいらないかなって思っちゃう』
「そこまでかよ…まぁ…よっぽどのことがなきゃ、俺らは崩れねえだろうな。俺もこの距離感は気に入ってんだ」
『そうだよね!近すぎず遠すぎずみたいな、ね』
「無駄にべたべたしない感じ、な。…オイ、悠長に話してる場合じゃねえかもしれねえぞ」

ラブが突然会話を遮り、え?と思って岩の上を見ると。
そこにいたのは、一匹の鬼とひとつの屍。

あちゃー…ほっときすぎちゃったか。
ま、この距離感も大事(ほんとか?)。





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