部屋が暗く、静かになってから15分後。
…くっそ、寝られんわ。
もう、なんやねん。
床は痛いし寒いしでもう寝れんわ。
さっきの名無しとのやり取りで眠気も飛んでったわ。
みんなはソファやら毛布やらで気持ち良さそうに寝息たてとる。
なんなんや俺のこの雑な扱いは…
あーもー寒ッ!!!
「へぶしっ」
くしゃみまで出てきたわァ。

『ん』
今の音で、名無しが起きたらしい。
毛布の中でモゾモゾと動いている。
「あぁ…スマン、起こしたか?」
『真子…寒いの…?』
「気にすんなや、寝とき」
それだけ言って、俺は名無しに背を向けてまた丸まった。
女の子に気ィ遣わせるんはいくら名無しやゆうても嫌やからな。
と、その時俺の体に柔らかいもんがかけられた。
え?と思ってそれを掴むと、先ほど名無しと取り合った毛布。
なんや、アイツ毛布使わへんのか?
くるっと振り向いたすぐそこにあったのは、俺と同じ毛布をかけて寝ている名無しの顔。
「!!!???」
ど、ど、どうゆうこっちゃ!!!???
何しとんのや、こいつは!!!???
なんで俺と名無しが一緒の毛布かけとるんや!?
「オイ、オイ!名無し!俺毛布いらんゆうとるやろ!」
『んー…?…かけないと、真子、風邪ひく』
「いやまァそうやけど…同じ毛布一緒にかけるゆうのは…」
『何意識してんの…昔はよく一緒に寝たでしょ…』
「そらそうやけど…さすがに年齢的にもうアカンのやないか…?って、起きろ!起きろ、名無し!」
『…ん……』

ダメや。
完全に眠ってしもた。
この状況で寝ろゆうのは、いくら幼馴染みゆうても健全な男子高校生にとったらかなりツライもんがあるで…
下手に体勢変えると名無し起こしてまうしな…
「くっそ、こんなんで寝れるかい…」
俺はそう思いながらも、大人しく寝っ転がった。

こいつの寝顔なんて何年ぶりに見るんや…
つーか、なんでこの状況でこんな安らかに眠れるんや?
昔見たときはホンマにただのガキんちょやったけどな、すっかり別嬪さんになってもうて…
暗がりの中でぼんやり見える整った顔立ち、長い睫毛、白いおでこ、血色の良い唇。
毎日見とるはずなのに、なんで、今日はこないに……

ドキドキしてまうんやろか。

一枚を二人で使うにはその毛布はあまりに小さく、かなり密着しないとお互いが毛布から出てしまう。
嫌でも触れあってしまう腕や、もう少しでくっつあてしまいそうな鼻。
その全てが、俺の鼓動を早める。
毛布のせいではなく、暑い。
いや、熱い。
と、不意にその唇が動いた。


『むにゃ……しん……じ…』


ドクッー…



な…起きとるんか?

「…おい、起きとんのか?寝とんのか?」

『…しん、……バカ、……ひよ里、やっ…ちゃ……え……』

寝言の中に問いかけへの答えはなく、その後はただ規則正しい寝息が聞こえてくる。

「な、なんや…寝言かい…」

あーもう…寝言にいちいちドキドキするって小学生かい。
しょーもな、自分…
せやけどこの状況、ホンマ耐えられへん…
早く、早く朝になってくれ…
俺は自分を落ち着かせるために、理性を保つために、全力で目を閉じた。



ーピピピピッ
パッー


「ほ?」

誰かの携帯が鳴って、明かりがついた。
まさか、俺が悶えてるうちに仮眠時間終了したんか?
誰が明かりつけ
「何夜這いしとんじゃハゲェ!!!!!!!!!」
「ホベァッ!」

顔面に炸裂したひよ里の右ストレート。

「ひよ里!いきなり殴るのやめろゆうとるやろが!」
「ウチの名無しに何しようとしたんや!正直に言うてみぃ!!」
「何もしてへんわ!夜這いなんかするかボケ!」
この大声の喧嘩のせいで、みんな起きてしもた。
「えぇーっ!しんずぃーが名無したんを夜這い!?」
「サカってんじゃねぇぞ、真子」
「真子、さすがにしていいこととしちゃいけないことがあるよ」
「だから何もしてへんっちゅーに!どして俺がこんな悪者扱いされんとアカンのや!おい名無し起きィ!俺の潔白を証明するんや!」
『んー…?む…お母さんあと10分…』
「俺がいつお前の母ちゃんになったんや…だめや、コイツ」
俺がひとつため息をつくと、そこに凶器を持った女が二人現れた。
「ハゲ、殺される覚悟はエエか?」
「よくもアタシたちの名無しをキズモノに…許さへんで」
ゆらり…という効果音がぴったりやろなぁ…
狂気じみた目で俺を見て、今にも襲いかかってこようとしとる。
あぁ、ホラー映画みたいやな………って
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!やめろ!やめろっちゅーねん!落ち着け、俺は無実や!!」
「やかましい!大人しく殺されとき!!」
「よくも…よくもウチの名無しを…!」
「やめんかいコラ!ふざけんのも大概にせぇ!うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

殺されるー素直にそう思た。
その次の日、この町の回覧板で「通り魔殺人か
!?夜中に響く悲鳴、被害者の必死の抵抗を住民が聞いた」という内容の町内新聞が回ったことを俺らは知らん。





その後勉強会は再開されたものの俺は一晩中ひよ里とリサに睨まれ続けた。
やましいこと何もしとらんのに…
けど、けど。

名無しの顔だけは、しばらくまともに見れんかった。

それは、勉強会が終わったあとも、テストが始まってからも。
やっと顔を合わせて目を見て話せるようになったのは、テストが終わった日。
それまでは、目を逸らしてしか会話をするしかできなかった。

「よっしゃあぁぁぁぁぁ!終わったで!!」
『んー終わったぁ!大丈夫!きっと赤点ない!』
「本当デスか!それはよかった…みなサンお疲れさまデス!」
「やったぁー!夏休みだよぉ!みんな、海行こ海!夏祭りも花火も!」
地獄のようなテスト週間が終わったで、みんな解放感に浸っとる。
ハッチの指導の賜物か、俺もみんなもどうにか赤点は免れられそうなとこや。
やっと楽しい夏休みが始まる、そんな期待に包まれとった。

『そうだねぇ!夏だし、たくさん遊ぼう、ねっ真子?』
白と話しとった名無しは不意に俺を向いて、ニコッと笑いながらそう言った。
「そ、そうやな!せっかくの夏やし色んなことしよな」
俺は名無しと話すのに無駄な緊張をして、うまく笑えんかった。
見慣れとるはずの名無しの笑顔なのに、今日は目を合わせるだけでなぜか心臓が早まる。

あー…アカン……
何意識しとんのや、俺。
名無しやぞ、幼馴染みやぞ。
なのに、なんでや。
毎日見とる顔なのに、仕種なのに、なんでや。
なんでそのひとつひとつをこんなに…
愛しく思ってしまうのか。




…俺の夏休み、前途多難やな……



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夏は、すぐそこまで来ている。



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