「ハイ、つきマシタ。」
『でっ…』
「で、」
「デッカイ家やな……」
ハッチの家は俺らの想像を超えたでかさやった。
家の前に立ち尽くした8人は、みんなその高さ、幅広さに硬直している。
「みなサンどうしたんデスか?ささ、どうぞ入ってくだサイ。今日はちょうど両親がいないので、くつろいでくだサイ」
「お、おじゃまします……」
こないな豪華な家に、俺らみたぁな庶民が入ってエエんやろか。
たぶんみんなそう思て、入れへんでおる。
ーいや、見かけ倒しかもしれん。
そう考えた俺は意を決して、家に上がらせてもろた。

が、

「な、なんやねん、これ…」

家の中は中でエライもんが仰山あった。
シャンデリア、高そうな観葉植物、高そうなカーテンに高そうな壺…
これが格差ゆうもんなんやろか…
俺ががっくりしてうなだれとると、リサやローズに慰めの言葉をかけられた。
「真子、肩落とさんときゃあよ。アンタは庶民なんや」
「そうだよ、ここは普通じゃあない。庶民は庶民なりの家があるんだ」
「なんや、その慰め方…庶民庶民言わんでくれ、余計傷つくわ」


「―みなサン、入りマシたね。それじゃ、始めマショウか」


こうして始まった勉強合宿という名のお泊まり会。
てんやわんやになるかと思いきや、意外とみんなまじめに勉強しよる。
俺もその中の一人や!
ハッチの教え方がうまいんか、するする頭に入ってくる。
あの名無しでも理解できるほどやから、相当なもんや。
「デスから、この△ABDと△CDGが相似になるので、線分CDの長さは…?」
『あっそっか!で、ここが4になるんだ!』
「正解デス。名無しサン、ちゃんとわかってるじゃないデスか」
『やー、ハッチの教え方がいいんだよ!でもこの問題次から解けるよ!』
「ハッチ、次俺いいか?化学のよ、この問題が…」
「あぁ、それはデスね…」
『ちょっと、ラブ!わたしが聞いてたのに!』
「うっせ!お前は終わったんだろ!順番だ順番」
ハッチをとられた名無しは文句を言いながら、俺の横に座ってきた。
「ハッチは本当に頭いいんやな」
『そうだよー、全国模試で10位入るくらいだもん』
「そ、そないに優秀なんか…!?」
『すごいよねぇ、同じ高校なのにわたしとは月とすっぽんだもん』
「いやすっぽん以下やろ」
『うるさいなー!真子だってわたしと同レベルでしょ!』
「ハゲ、名無しと何いちゃついとんねん!集中できひんやろ!」
「ひよ里、なーんで俺だけ悪者やねん…」
けど、確かにみんな勉強しとる。
あんだけ大声で騒がれたら迷惑やんな…
「静かに勉強すか…」
『だね…』





「っはー!限界や!休憩!」

現在、午前3時。
俺にしてはエライ珍しく粘った方や。
勉強も大分進んだ気ィするしな。

「スミマセン、ワタシも少し休ませてもらってもいいデスか…」
6時間ほどぶっ続けで解説してくれたハッチも、そろそろ限界。
『ハッチ、無理しないで休んで!ありがとうね!』
「ハイ…スミマセン。1時間寝たら、起きマスから。みなサン寝たかったら、そこのソファと毛布を自由に使ってくだサイ。雨も降って寒いデスから…デハ…」
そう言って、ハッチはふらふらしながら寝室に入って行った。

よう見たら、みんなもだいぶぐったりしとる。
「みんな、一回仮眠すっかァ?」
「う、うん…ちょっと頭がパンクしそうかな…」
「アタシは一回寝るで。起こさんときゃあよ」
『みんな、おやすみ…』
時間も時間や、そりゃみんな眠くなるわ。
ローズとラブ、ひよ里とリサは同じソファで、白と拳西は床で寝とる。
「あーあー…ひよ里の寝顔間抜けやなー…白はヨダレか」
『ラブ寝相わるっ!!拳西は毛布はだけてるし…ほら、風邪ひくよ!』
「ん…るせ…あちぃんだよ…」
みんなの世話を一通りしたところで、俺にも眠気が襲ってきよった。
「ふぁ…俺らも寝るか?」
『うん、そうだね…実は結構しんどかったりするんだよね』
「そうやなァ…普段使わん頭使とる分も体力消費しとるしなァ」
『そうなんだよーっって、どういう意味?』
「まぁまぁ怒んなや」
『真子に怒るだけ体力のムダだもんね』
「そやそやーってどういう意味やボケ」
『仕返しですよーふんっ!』
「ん…うるさ…黙れ……」
『やば…ゴメン、ひよ里』
みんなの睡眠妨害する前に俺も寝るか…
それにしても雨のせいで寒いわ。
もうすぐ夏になるっちゅーのにな。
ハッチ、毛布借りるで。
「おーっ ふわふわやな」
『わおー!ふわふわ!!』

「『…?』」

俺と名無しは同じ毛布を同時につかんだ。

「離せや。コレは俺の毛布やで」
『えー?しょーがないな、あげるよそれ』
「おおきになー」

名無しは毛布をもう一枚探し始めた。
こない寒い日に毛布なしで寝れるかい。
なーんで拳西はタンクトップで寝れんのや?
ローズなんか2枚かけとるゆうのに。
ま、俺も寝るかァ
そう思て寝っ転がったら、名無しが戻ってきた。
そんで、なぜか深刻な顔をしとった。

『真子…ない』
「…はァ?」
『ない』
「だから何がや」
『毛布』
「そうけ、おやすみ」
『それ、ラスト一枚』
「…え……」
『寒いよ、今日』
「せやな」
『テスト前だよ、風邪ひいたらヤバイよ』
「せやな」
『だから貸せっ!!』
名無しは無理矢理俺の毛布を引き剥がそうとしてきた。
「嫌や!俺さむがりやねんぞ!」
『わたし女の子だよ!冷えたら大変なんだよ!』
「じゃあローズから一枚もらえばいいやろ!」
『ダメだよ!ローズ寝てる時起こすとすっごい不機嫌になるんだから…』
「あ、あのローズがか?」
『そう、去年のお泊まり会の時にふざけて白がローズ起こして大変なことになったんだから』
あのローズがそないなことになるんか…
って、問題はそれやなくて。
「ったく…しゃアない。俺は女の子には優しくするようにできとるからな、ほれ」
俺は名残惜しくも、ふわふわの毛布を手放し名無しに渡した。
『ありがとー!さっすがイケメン真子!じゃあ、おやすみー』
「ほな、おやすみ」



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