カーテンのない窓から差し込んでくる光が暖かい。ああ、もう春がきたんだなあ。

春。

それは始まりの季節であり、終わりの季節であり、それから新しい旅立ちの転機でもある。そしてまた、春は誰にでも等しく訪れる。もちろん、わたしにも。

わたしの春は第二志望の大学に受かって、18年間一緒に過ごした家族と離れ一人暮らしをする、という形でやってきた。だから今、空っぽの簡素な箱になりつつある自分の部屋でダンボールを量産し続けている。高校で使った教材は…いらないよね、重いし。あ、マンガだ…マンガかー、マンガねえ…、うん、持って行こうかな。さて次は、

「…あ、れ?」

押入れのはじっこにぽつんと置いてあるダンボール。こんなふうに、大掃除か引越しでもしない限りは見つからないであろう場所。こんなのあったっけかなあ?よいしょと引っ張り出して中身を見ると、埃の匂いといっしょにきっちり整理されたアルバムが溢れ出した。写真だ。中学生の頃、帝国学園サッカー部のマネージャーをしていた頃の。

「おお、懐かしい…」

写っているのは懐かしいチームメイトの懐かしい練習風景。今は名門私立大学に通いながらやっぱり天才ゲームメイカーとしてサッカーを続けている鬼道くん。マントにゴーグルにこの髪型、なんのつもりだったのだろう。当時はちょっと怖かったそのスタイルも、今となっては可愛いコスチュームだ。あ、こっちの写真には野性的キャラ付けペインティングの源田くんもいる。このペイントがなくなった後も身長はむきむきと伸び続け、いかつい巨人になり上がった。それなのに今、なんと保育園でアルバイトをしていて、子供たちに人気のある素敵な先生なのだ。まさか保育園の関係者や親御さんたちに、この写真は見せられないなあ。でも、今のみんなよりちっちゃくてかわいい…ほんっとうに可愛いよ!


「……、あ……」


ふとわたしの目に映った、水色の髪に眼帯の少年。綺麗な顔立ち、片目だけの笑顔。
佐久間、次郎くん。中学の頃、わたしの彼氏…だった人。そうだ、そうだよ、彼は今どうしているんだろう。あの時は色々なことがあって、泣いて、笑って、それで何回も会えなくなって。結局、音信不通を繰り返していたら、なにもなかったみたいになってしまった。あぁ。だからこのダンボールはあんな奥底に埋められてたんだ。見えないように。触れないように。でも捨てるのが怖くて。過去もわたしが、つらくて、忘れたくてやったんだ。それはさ、しょうがないことだよね。でも今は違う。こんなわたしだって成長して、良くも悪くも前よりはじょうずに生きれるようになったもの。惜別があるのを知りながらも、人は出会って別れを悲しむ。どんなに違う経緯でも、最後に行き着くのはみんな同じ。それを知って、何度も泣いて、少しは強くなれたはず。

「ね、佐久間くん」

だから全部思い出にして、今度はダンボールになんか詰めずに、ちゃんとこの胸にしまっていけるよ。もう大丈夫になったんだよ。大丈夫。できるよ。つらいの乗り越えたわたしなら、今なら、何だって。そう思ったら、写真の中の佐久間くんの笑顔がもっと笑ったように見えて、ひまわりみたいで、まぶしくて、ちょっと泣きそうになった。


「お客さんきたわよー!」

「えっ、ああ!はーい、部屋まで来てもらってー!」


母の声に慌てて潤んだ目を擦る。そういえば今日で荷造り終わらせるからって、春奈ちゃんに貸してた本を返してもらうんだったっけ。がちゃりと開いた部屋のドア。見慣れたお母さんのエプロンの後ろに春


「…さ、さく、まく…」

見慣れたお母さんのエプロンの後ろに、見慣れない水色の髪の毛。それにもっと見慣れない佐久間くんの、両目。眼帯は見当たらないけど、確かに佐久間くんだ。ほんものの佐久間くんだ。い、いままでどこにいたの。なんで連絡くれなかったの。ご飯ちゃんと食べてたの。今日はどうしたの。積もる思いがぐるぐるまわって、何も言えなくなる。せっかく胸にしまった思い出も涙も、全部出てきてしまいそうで、心をぎゅっとおさえこんだ。そんなわたしを見た佐久間くんは、ちょっとびっくりしたみたいな顔になって、そのあとすぐ、写真よりももっとまぶしい笑顔で笑った。ああそっか、右目の分と左目の分。あわせて二倍だね。そんな太陽みたいな佐久間くんは、すぐに滲んで見えなくなった。











はるがきたね。


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