そう。気がつけばわたしはクラピカに手を引かれて。


それこそ真っ暗な屋敷の中を、裸足でひたひたと歩いていた。もう幾分歩いただろう。もう着くのと問えば、もう着くよと答える。わたしたちの会話はそれだけで、そこから先は無音の闇。不思議と恐れや戸惑いは感じられず、かといって期待も余裕もない。ただ夢中で、ただひたすらに、ぽつりぽつりと歩を進めていたような気がする。




そうね、そうだなあ。こんなときには、大仰な鎮魂曲なんかが聴きたくなる。大きな古い時計の振り子が揺れるような、重々しい拍子の。明るい音や綺麗な和音がひとつもない、一小節聴いただけで気持ちが茹だるような、そんな曲を。









あ。

そんなことを考え始め、わたしは歩くことに飽きがきたのを知る。ねえクラピカ、まだ着かないの、そう言いかけた途端、クラピカはするりとわたしの手を抜け出し、たたたんと前へ踊り出た。銀の鎖がじゃらんと鳴り、喪みたいな群青の衣が空気を孕んでふわりとふくらむ。
それで一回転して目が合って、膨張した色が背景の黒にすっと馴染んだとき、わたしの口を両手でぱっと押さえつけて、クラピカはそのままちいさく笑った。




「ようこそ、しね」




わたしの喉元の蜘蛛と数字が歪む。きみはこれでまんぞく?



2011.5.12
ありがとう、だいすき、しね



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -