05




今やイタリア全土を裏で取り仕切っているパッショーネのボス、ジョルノ・ジョバァーナは、この数日間何度もため息を吐いていた。
側近であるポルナレフやミスタにも理由はわからないようで、シーラ・Eは「私がジョルノ様のお悩みを解決できたら…」と、どこか夢見心地な顔で彼女なりに心配をしている。
仕事こそきちんとこなしているが、そんな思いつめた様子で居られては自分たち含め部下の士気が下がる一方だ。
今もその様子は変わらず、ジョルノのサインを残した書類たちを前に、机に肘をついたままなかなかペンは進まない。
そんな状況を打破しようど、フーゴとミスタは、思い切って本人に直接問い質すことにした。
「何があなたをそこまで悩ませるのですか」と。

「…僕、何か顔に出してましたか?」

ジョルノは驚いて2人に問う。
それにすぐ頷いて答えたのはミスタで、「あのよォ〜…」と少しかったるそうな喋り方で話し始めた。

「普通の人間なら気付かないだろーが、俺たちみたいなカンのいいギャングにはすぐに分かるぜ。何があったまでは分からねーが、何かあったってのはな」

「僕たちに出来ることがあれば、いつだって協力しますが…そのための部下じゃあないですか」

ミスタとフーゴの言葉にジョルノは目を丸くして、しかしその後に苦笑して「プライベートの問題まで組織の手を借りたりはしませんよ」と二人の申し出を断った。
仕事詰めだったジョルノのプライベートな問題と聞いて、ミスタは興味が湧かないなんてことはない。
ニヤリと口元が動いたのをフーゴは見逃さず、一度大袈裟に咳き込んだ。
けれど、それでとまるミスタではない。

「話すだけで気が楽になったりするかもしれねーだろ?ホラ、お前の悩みはなんなんだ?ジョルノ」

話すまで動かないぞ、とでも言うかのように革のソファーに腰掛けて腕を組むミスタを見て、ジョルノは彼らしいなと笑った。
そして観念したかのように「これは、本当にプライベートな悩みなんですが」と前置きから始めた。

「この前、たまの休みに羽を伸ばそうとバールに行ったんですよ。その時に出会った、同じ歳くらいの女の子が、…少し気になりましてね」

「…それって、つまり」

フーゴの言葉を遮って、ジョルノは「恋ではないと思います」と断言した。

「その時は少しだけ話して終わりでした。僕も、ただ少し好感が持てる女の子だと思っただけです。そして先日、たまたま街中で見かけた時、彼女は枯れかけた花を一瞬のうちに、また綺麗に咲かせてみせたんです」

フーゴはその話を聞いて、真っ先にスタンド能力を思い浮かべた。
回復の能力か、時間を巻き戻す能力か、それとも植物を操る能力か。
スタンド能力の限界はフーゴでも未知数であり、考え出せるものはこの短時間でもどんどん増えていくばかりだ。
ミスタも同じ事を考えたらしく、「お前の能力と似てるな」と呟いた。
ジョルノの能力は、無機物に生命を与える能力だ。
植物や生物を生み出すことはもちろん、その能力を応用して欠損した身体の部分を生み出して治療することも出来る。
同じとは言えないが、確かに似ている所はある。

「…スタンドではなかった。それは間違いない。けれども、彼女はなぜか、誰もいないはずの場所に向かって何かを話しかけていた。…それが気になりましてね。声をかけようとしたら、見失って」

「それなら、手のあいているもので探しますか?」

「いいんです。僕のプライベートな話だ。この街で二度会っているんだから、またそのうち、探さなくても会えると思います」


「だから大丈夫です、気にしないでください」と、ジョルノは気持ちを切り替えるように大きく息を吸い込み、吐き出し、また仕事に戻った。



しかし、ミスタにはなにか引っかかるものがあった。
フーゴはジョルノの言葉を信じ無駄に詮索をしないつもりだろうが、もしもその女がスタンド使いであり、更にどこか別の組織に属しているとするならば、素性も知らずにこの街で泳がせておくのは得策ではない。
ジョルノが何もしないならば、自分がその女の正体を暴き判断するべきだ。

まずは手掛かりを探しに行かなくてはと、ネアポリスの街へ出る。
いつもと変わらない賑やかな街中を歩き、不自然に見られないように辺りを見回す。
更に自身のスタンド能力である『セックス・ピストルズ』を発動させ、不自然に一人で会話する女がいないかどうかを捜索させることにした。
射程距離はそこまで広くはないが、数が多い分情報は集められるだろうし、相手がスタンド使いならばスタンド像を見て何かしらの反応を示すだろう。

「ナア〜、ミスタァ〜!後デ サラミダゾ!忘レルナヨ!」

「約束ダカラナッ!」

そう勝手に約束を取り付けてあちこちに飛んでいくピストルズたちを見送って、ミスタは拳銃を撫でた。
パッショーネの邪魔になるのならば始末しよう、と心に誓いながら。




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