03




あれでもない、これでもない、とリズがクローゼットを散らかして三十分が経った。
シーザーはいつまで経っても今日の洋服が決まらないリズに付き合うのも疲れ、少量の波紋を手に宿して服を片付け始める。

あれだけ小さかったリズも、もう十七歳だ。
シーザーの腰にも届かなかった身長も、今では胸板辺りまで伸びた。
幼さの残る顔つきだが、それでもシーザーに色々良くしてもらったために可憐な少女へと成長した。
…かに思えたが、生活は少し甘ったれたまま育ってしまったと反省する。
リズを育てたのは勿論彼女の父や母であり、シーザーはただ一緒に居ただけだ。
しかし、幼いリズと過ごしているうちに、自分を頼ってくれる彼女の父や兄になった気分になっていたのだ。
もう少し節度を持てばよかっただろうか、いや無理だと放り出されたシャツを畳みながらシーザーは思った。

「ねえシーザー、この赤のワンピースと白のワンピースどっちがいいかな?それとも別の?」

今もこうして泣きつかれては世話を焼かずにはいられない。

「白のワンピースに先月買った靴でいいんじゃないか?カバンは普段のでも似合う」

「本当!ありがとうシーザー!」

リズはシーザーにハグをして感謝を述べた後、少し離れて「後ろ向いててね」と念を押す。
シーザーとリズは一定距離を離れられないため、風呂に入る時も着替えの時もすぐ近くに居た。
「わかった」と若干めんどくさそうに返事をして、リズに背を向けた。

「今日はどこに?」

「買い物とお散歩!せっかくのお休みなんだもの、家に居たら勿体無いでしょう?」

ゴソゴソという音からまだ着替えの最中だとわかる。

「波紋の修行は?」

「…」

返事は返ってこないが、どんな顔をしているのかはよく分かる。
リズ、と呼べば誤魔化すような笑いが返ってきた。

「今日はお休み…」

「明日は?」

「明日もお休み…」

「リズ」

「うう…」




シーザーの許しをもらって修行は休みになったため、リズはネアポリスのバールでお茶を楽しむことにした。
日曜ということで混み合ってはいたが、タイミングが良かったのか、すぐに三人掛けのテラス席に案内された。
リズは日当たりの一番いい席に、シーザーはその左隣の椅子に掛けた。
そしてカフェラテとチョコレートシロップと苺で飾り付けられたパンケーキを注文して、一息ついた。

「…買い物するんじゃあなかったのか?」

シーザーは机に肘をついてリズを見る。

「だって、お目当ての服が売り切れてたの!買おうと思ってたものが無かったのに、シーザーは買い物続ける?」

「代わりのものを買っても良かったじゃあないか」

無難に似たデザインの物を買ってもいいし、女の子なんだからもう少し買い物に時間をかけたっていい。
けれども妙なところでさっぱりしてしまっている。
育て方を間違えたか、とシーザーが本気で思い出したころ、注文したものが甘い香りを漂わせてやってきた。
運んできた仲良しの店主は、目をとろけさせるリズに笑った後、少し申し訳なさそうに「相席を頼めるかい?」と言った。

「相席?」

「ああ、一人なんだが、大丈夫かい?」

「なら大丈夫です。今日は日曜日だもの、仕方ないでしょう?」

「ありがとう、君は本当に優しいね」

リズも店主も笑みを交わす。
そうして店主が連れて来たのは、特徴的な前髪で金髪が美しい青年だった。
リズは少し見惚れてぼーっとしてしまったが、すぐに「こちらの席をどうぞ」とシーザーが居る席に座られないよう自然に案内をする。

「助かりました。他のバールは開いていなくて、もう帰るしかないかと思いました」

まるで陽の光のように爽やかな笑顔で笑うので、リズは素直にかっこいいと思った。
シーザーとはまた違う魅力がある。
彼は店主に「何時ものを」と告げて案内された席ではなく、シーザーの座る席に手をかけた。
思わず「アッ」と声が出る。

「どうかしましたか?」

彼の不思議そうな顔を見て、今度はしまったと心の中で呟いた。
シーザーもそんなリズの気まずさ感じ取ったのだが、「俺が立つから気にするな」とリズに声をかけるしか出来ない。

「ええと、あの」

「相席はやはり嫌でしたか」

「そうじゃあないの!ないけれども…」

リズの嘘の下手さに目を覆いたくなる。
リズも出来ることならこの場から直ぐに立ち去ってしまいたかったが、目の前にパンケーキを残したままそれは出来ない。
ジョルノはそんなリズの様子を汲み取ってか、最初に案内された席に着いた。

「ごめんなさい。あと、ありがとう…」

「気にしないで、席にこだわりがあるわけではないので、何処だっていいんだ」

まるでリズの怪しい様子はなかったことのように、彼は優雅に足を組んだ。
その一連の動作にほう…とため息をついたリズには、騒がしいはずのバールが静かに思えた。
そしてさらにそれを傍観していたシーザーは気付いた。
リズが彼に一目惚れをしたことに。




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