02




シーザーがこの兄妹喧嘩を見たのはこれが初めてではなかった。

リズの家は、スタンドと呼ばれる波紋にも似た生命エネルギーを使うものが多く生まれる家だった。
シーザーがスタンド能力を初めて見たのは、リズが家の中で転びそうになり、兄のエリオがそれを助けた時だった。
何もなかったはずのフローリングから蔦が伸び、リズの身体を支えるように巻きついたのだ。
波紋の力かと思えば、そうではないとリズは言う。
そしてこの時も、リズが「助けなくていい!」と啖呵を切り喧嘩が始まったのだ。

今日も兄に言い負かされ自室のベッドでリズはぐずっていた。
どちらが悪いという訳ではないが、敢えて言うのなら話をちゃんと聞かないリズが悪いとシーザーは思う。
しかしこの年齢で自分の才能に気付ける訳がないし、幼い体で鍛えるの辛いことだろう。
しかしながらこのまま自分に自信がないまま劣等感に押し潰されて過ごすのはあまりにも可哀想だ。
シーザーは布団にすっぽり隠れてしまったリズの背を優しく叩き、彼女が落ち着くのを待った。

しばらくして、リズが顔を出す。
目の下を真っ赤に腫らしてシーザーを見る。

「シーザー?」

「どうしたリズ、可愛い顔が台無しじゃないか」

「だって、だって悲しいんだもん。泣きたくなくても、我慢したら苦しいんだもん。ねえシーザー、私もスタンド使いたいよ」

鼻を啜りながらリズはシーザーの服の袖を掴む。
こういうことをする時は、寂しい時か甘えたい時だと知っていた。
シーザーは波紋を通わせて手で涙を拭ったあと、ティッシュを取りリズの鼻をかんでやった。

「シーザー、幽霊なのに物がつかめるの?」

リズは不思議に思う。
この前一緒に絵本を読んだ時には、確かにシーザーは本を持つことができなかった。
まるでホログラムのようにスーッと手を通り抜けてしまうのだ。
それなのに、今はどうして。

シーザーは、これを好機と考えた。
リズに波紋のことを教えるのには一番いいタイミングだ。
一つ咳払いをし、リズの被っている布団を優しく引き剥がしてお互いに向き合った。

「いいか、リズ。これから特別な話をする。それは俺と君が持っている特別な力の話だ」

シーザーがそう語りかければ、リズの表情は期待に満ちたものに変わる。
その素直さに可愛いと思うと同時に、まだまだ修行をつけてやることは先の事だとも思う。

「波紋という生命エネルギー、それを俺たちは使えるんだ。今から説明する。ちゃんと聞けるか?」

「聞く!」

「いい子だ。…いいか、波紋というのは、東洋の仙術、あー、つまり、不思議な力の一つなんだ。使い方次第では水の上を歩くことも出来るし、ずっと若いまま歳を取らないことも出来るんだ」

リズにも分かるように言葉を選んで話すシーザー。
リズもそのことを理解して、しっかりとシーザーの言葉を忘れないように復唱する。

「魔法みたいね!」

「ああ、そうなのさ。波紋を使うことでまだまだ出来ることは沢山あるんだろう。…俺がこのように幽霊になってリズの側にいるのも、意識ををすれば物が掴めるのも、不思議でならないが波紋の力なんだ」

生きていないのに生命エネルギーである波紋が使えるというのもおかしな話だが、事実このようなことがあるのだから波紋の力の無限の可能性を思い知らされる。
リズはキラキラと目を輝かせてシーザーに詰め寄った。

「私にもすぐ出来る?シーザー、教えてくれる?」

「ああ、教えてやろう。でも今じゃあない。君がもう少し大人になってからだ」

「どうして?」

「リズの身体に負担がかかってしまうからだ。もし波紋の力を制御出来なければ、身体がこのまま成長しなくなってしまうかもしれないだろう?」

シーザーがそうたしなめれば、リズは複雑そうな顔をした。

シーザーには確信があったのだ。
普通ならば、波紋の力というのは発現する方が難しく少しくらい修行をつけてやったって問題はない。
身体的な辛さはあるだろうが、少し激しい運動をするくらいにとどめておけばいいのだ。
しかしリズの場合は、意識していなくても微量の波紋を身体の中に蓄えている状態だ。
元々波紋を練りやすい体質のまま修行を行い制御が出来なければ、身体の負担が大き過ぎる。
天性の才能の持ち主を壊してはならない、ましてや女の子だ。
また膨れっ面に戻ってしまったリズの頬を撫でて、「それまでは一緒に遊んであげよう」と提案をした。

「本当に?学校へ行くのも、本を読むのも、アイスクリーム食べるのも一緒よ?」

「ああ、約束しよう」

「嘘をついたら針千本よ?」

「まず物を食べられないぜ」

「ふふ!知ってる!」

リズはやっと子どもらしく笑った。




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