「あのォ〜…わたしィ…こういうのはさ、向いてないんだけど…」
「似合ってるって!!いやあ、可愛い!素敵ィ!」
「やめてジャイロ!」
部員勧誘当日、無理矢理着せられたのはフリルが大袈裟なメイド服。春先には少し寒い丈のミニスカート、だらしない太腿を締めあげるニーハイソックス、そしてさみしい胸元。どこを取っても可愛くはない。くだらない恥ずかしい衣装を企画したジャイロをキッと睨みつけると、「可愛い顔が台無しだろ?」なんてまた煽てられた。
今日は新入生だけがオリエンテーションがある為に登校を義務付けられていて、今この構内に居るのは新入生の他には部員勧誘すべく目を光らせている上級生のみ。どこの部も異常なハイテンションで新入生を呼び込んでいる。それに対して私たち、消極的すぎる。
メイド服の私と練習着のジャイロと格好こそ目立つものの、乗馬なんてやったことも興味もなかった子が大半で、何度か一緒に記念撮影されたくらいで成果はゼロ。
「ジャイロ…ほんとに入部希望者なんて居るわけ?」
「居るさ!アテがあるって言ったろ?」
「言ってたけど、さぁ…」
「まあしょげるなって。そろそろ、…アッ居た居た。ジョニィ!」
そうジャイロが声をあげて手を降る先には、車椅子に乗ったパーカーの青年がいた。向こうもこちらに気付き手を振り返している。
「ジョニィ、久しぶりだな。ちゃんと飯食ってたか?」
「ジャイロこそ。…あ、初めまして、ジョニィ・ジョースターです」
「あ、名字名前です。ジャイロとは同じ学年なの、よろしくね」
ジョニィから伸ばされた手を握って握手。細身だと思ってたが、結構な筋肉質だ。綺麗に鍛え上げられている。そういえば、車椅子に乗っているけど騎乗できるのだろうか。
「えっと、…失礼だとは思うんだけど…」
「…わかってますよ」
どうやら私の視線の先にあるものを彼は理解していたらしく、「先日イギリスに行った時慣れてない馬に乗ったので酷い落馬をしたんです」と苦笑する。
「両足骨折ですが、次期に治りますから。心配しないで」
「そうなの?でも、無理はしないでね?」
「名前は心配症だな!俺はジョニィを部室まで送って来るから、しばらく頼むぜ!」
「えっ、あ、ちょっと!」
私の返事を聞く前に、お気に入りの一週間の歌を歌いながらジョニィの車椅子を押してサークル棟へと向かうジャイロ。ちくしょう私を一人にしやがって。いくらいなくなったジャイロに悪態をついても何かが変わるわけではないので、仕方なくチラシ配りを再開した。
大体の新入生は先程述べた通り、乗馬サークルなんて興味はない。だから何故私みたいなちんちくりんが乗馬サークルになんて入っているのか不思議だと好奇の目でみられたりもする。それか素通りだ。
いい加減寒くなって来た。もう戻ろう。そう決めて呼び込みの声かけを止めてサークル棟の方向へ踵を返すと、後ろから「オイ」と声をかけられた。
「お前、馬に乗るのか?」
声をかけてきたのは、誰がどう見ても美男子だと評価するような金髪が美しい青年だった。優しいとか、温かいという印象はなく、彫刻のような気高さを持つ、そんな美しさだ。
「ええと、私はマネージャーみたいなものです。乗馬に興味が?」
「部室まで案内しろ」
気がお強いらしい。
ディエゴ・ブランドーと名乗った彼は、私が彼を知らないことに凄く不満だったらしく、サークル棟へ向かう最中、全く口を聞いてくれなかった。彼は乗馬を嗜む者なら知らない人は居ないほどの有名人らしい。
部室には既に誰も居らず、部室の出欠ボードにもジャイロの名前の横に「帰宅」とハート付きで書かれていた。あの野郎帰ったな。
入部希望用紙をディエゴに渡し、記入する場所を伝えてそれから無言で待つ。ディエゴは綺麗な字を書く事を知った。
「書いた」
「あ、ありがとう。今日はもう帰って大丈夫だよ。新歓までは出欠自由だから。新歓の日程はあとでメーリングで回すね」
「…名前」
「え?呼び捨て?」
「いいだろ?…お前、付き合ってる男は居るのか?」
「居ないけど…」
そんなことディエゴには関係無いだろう、と思ったが目の前の彼はニヤリと笑っている。何故だか肉食動物を連想させる笑みだった。