セカンドレースも終盤に差し掛かった。
名前が走るその先にはディエゴとサンドマンが並走しており、なんとか先頭集団に食い込めたことに安堵する。
中継地点で出会ったホット・パンツの横に着けるようにして愛馬を走らせ、片手を上げて挨拶をする。
「調子はどう?」
「まあまあだな。ゴール間近でそう喋る余裕があるなんて、羨ましいことだな」
ホット・パンツは、視線をコースの先から変えずに言葉を返す。
皮肉めいた言葉だが、名前相手ならこれでも悪意がないと分かるだろうと発したものだった。
名前もそれをわかってか、ホット・パンツに笑いかけながら「余裕はないさ」と会話を続ける。
「上位を目指してるけど、優勝が目的じゃあない。優勝は私ではなく、ディエゴ・ブランドーやジャイロ、ジョニィたちに任せたいね。その方が華があるから」
「わたしでは不満か?」
「いや?君が、そう、レースを制したホット・パンツは、本当は女だった!って書いていいのなら、是非とも優勝してほしい」
「それは無理な話だな」
「そういうと思った」
手綱を波打たせ速度を上げる。
それはホット・パンツも同じようで、二人でトップを走るディエゴとサンドマンへの距離を詰める。
しかし向こうは凄腕のジョッキー、流石に並ぶことは難しい。
偶然かワザとか、飛んできては進行を邪魔する小石を鞭を操り馬にぶつからぬよう背後へ飛ばしていき、そしてディエゴの後ろから横へとずれ込む。
四馬身ほど離れているからと言っても気が抜けない。
前に出過ぎず、上位で、そして最後まで計画的にレースを運ぶのも楽な話ではないなと名前は頭を掻いた。
そしてもう少しでゴールが見えてくるかというタイミングで、何処からかジョニィとジャイロが先頭集団へと合流し、レースは更に荒れてくる。
少し汗をかいた愛馬の首を撫でて勇気付けてやれば、期待に応えるかのようにスピードをあげてくれた。
そして見えてきたのはレースの行く末を見に来ていた大勢の人間で、今までなかったコースを形作るかのように大きな直線を開けて両端から歓声を飛ばしている老若男女様々な、人、人、人。
「これは燃える展開じゃあないか」
「そうジョッキーがのんびりしていていいのか?わたしにまで抜かされるぞ」
「おっと、それはいけないや」
このままトップ集団に置いていかれてはいけない。
お喋りもそこそこに、名前は姿勢を落として風の抵抗を減らし、馬の加速に合わせる。
更にグンと早くなった愛馬をもう一度撫で、観客席から風に煽られて飛んできた新聞を一部荷物の中に雑に押し込む。
そのうちにホット・パンツにクビまで抜かれてしまったが、この調子で行けば離れすぎることはない。
そしてゴール地点からの中継放送が聞こえてくる。
『先頭は英国の騎手ディエゴ・ブランドー、それをサンドマンが追うッ!ジャイロ・ツェペリもいるぞッ!そしてファーストステージ5位のジョニィ・ジョースターッ!』
熱の入った実況を聴きながら、先着順を予測する。
やはりディエゴはこのまま一位か、それともサンドマンが走り抜けるのか、ジャイロが勝負をけしかけるか。
名前個人としては、このままジョニィが一位をとってくれたら嬉しいのだが、彼はそこを狙っているのかわからない。
観察し過ぎて遅れを取らぬように、しかし彼らに迫り過ぎぬよう、名前は無難な着順を目指す。
「ジャイロがやはり勝負をしかけたか…」
ディエゴもサンドマンもそのまま黙っているような人間ではない。
お互いにまた限界まで加速し、誰が一位を獲得するのかは分からなくなる。
そんな中、新聞を腕に引っ掛けたジョニィがジャイロに向かって何か叫び始める。
しかしジャイロは中々相手にせず、名前も聞き耳を立てて見たが、馬の襲歩の音と歓声で何を言っているのか全く把握できない。
そしてやっとジャイロが振り向いたそのタイミングで先頭集団がゴールし、気を抜いたジャイロはどうやら着順を落としたようだった。
『1位はディオだあぁーッ!!2着ジョニィ・ジョースター…3着サンドマンッ!ジャイロ・ツェペリは4着だああぁぁーーッ』
『そして5着にホット・パンツ!6着には名前・名字ッ』
ゴールの門を潜り抜け、ホット・パンツと一緒に少しだけスピードを落とす。
しかし走ることはやめず、このままサードステージへと入る。
「あー、残念!君には負けてしまったね」
「目の前のレースに集中していればこんなことにはならなかったんじゃあないか?」
「そうだね、でも、私はこれでいいんだ」
自分の名前を呼ぶ声に応え、名前が観客席に向かって手を振れば、ホット・パンツは盛大にため息を吐いた。
「君は何処のコースを行くんだ?」
「…わたしとレースを運ぶつもりなのか?」
「あら、嫌われてしまったかな?」
「そういう訳ではない」
「お前の茶番に一日付き合っていたら、気疲れを起こしそうだからな」とホット・パンツ。
名前は「返す言葉もありません」と笑い、馬の上で器用に地図を広げた。
「私はこのサードステージ、ジョニィとジャイロについて行ってみようと思うんだ」
「だから君とはお別れだね」と悲しむ素振りを見せれば、「それは願ったり叶ったりだな」と素っ気ない言葉で返されてしまった。