約四ヶ月もの間降ったり止んだりを繰り返していた雪も姿を隠し、ついに冬靴をしまう時期になった。
寒かったり暖かかったりの繰り返しに負けてししまい、風邪をひいてしまった私は、学校を休んで布団の中に居た。
ディエゴに熱冷ましのシートとヨーグルトやゼリーなどを買い込んできてもらい、家にあった薬を飲んで安静にしているのだ。
薬のおかげで眠れるかと思ったのだが、鼻は詰まって呼吸が辛く、頭は鉛でもつけているかのように重たい。
それに襲ってくるはずの眠気が負けてしまい、全くねむれないのだ。
それだけではない。
風邪を移したくないからと寝室には入らないように言っているのだが、ディエゴが何かと理由をつけて私の側にやってくる。
気にかけてもらって嬉しくないわけではないのだが、10分おきに汗を拭いてくれようとしたり、果物を食べさせようとしたり、とにかくしつこい。
元気があれば構ってあげたいが、今は体力が無く少しでも眠りたいのだ。
目を閉じて、何も考えずに眠りに落ちることに集中していたが、やっぱりディエゴが部屋に来る扉の音で目が覚めてしまった。
「こんどは、何」
鼻が詰まっていて上擦った声しか出ない。
「様子を見に来ただけだぜ。…熱は、まだあるな」
額、首元、と熱を確かめ、ぬるくなったシートを張り替えてくれる。
細かな気遣いはありがたいのだが、熱があるせいか感謝する余裕がなく、「それだけなら、来なくていい」と言ってしまう。
「私、起きてるのがつらいの」
「眠って休息を取ればいいだろ、オレが見ててやるから」
「だから、ディエゴが居たら眠れないの、もう、あっち行って」
言葉がきつくなってしまったが、あとで謝ればいい。
そう思って寝返りをうち、壁の方を向く。
いつディエゴが出て行くのかと扉の音を待っていたのだが、その音は聞こえて来ず、代わりにディエゴが私と同じ布団に入ってくる音、感触を感じる。
後ろから包み込むようにして私を抱きしめるので、「ちょっと」と掠れた声を出す。
「移るから、はなれて」
「そんなヤワなヤツに見えるか?」
「可能性はゼロじゃないの」
再度寝返りをうち、ディエゴと向き合う。
綺麗な顔がすぐ近くにあり、その青い瞳は真剣に私のことを見ている。
「人の体温は気持ちが安らぐからな。風邪を引かないと約束する。だから、名前と一緒にここにいる」
この言葉とディエゴの表情で、私がもう何を言っても無駄だとわかった。
ふう、と一息吐いて、身体を少し丸めてディエゴの胸板に額をくっつける。
ディエゴの言うとおり、落ち着いたリズムで鳴るその鼓動や、優しく背中を撫でたり叩いたりする手の感覚が、辛かった心をグニャグニャと解して行くようにリラックスできた。
「ごめん、ありがとう、ディエゴ」
「名前の我儘なら、なんだって聞こう」
「…ディエゴが我儘なんだよ、私じゃないよ」
「それも、そうだな」
トン、トン、と心地よいリズムで背中を叩かれ、子どものように眠くなってくる。
「…ねむれそう」
「それは良かった」
ゆっくりおやすみ、とディエゴが言ったような気がした。
けれども瞼はもう開けられない。