「美味しいものが食べたい!」という要望に応えてくれたのは私の上司のテレンスさんだ。
テレンスさんが夕飯作り、私が食器洗いをしていた時に雑談として、この間家で作ったチャーハンが驚きのマズさだったことを話せば、汚いものを見るような目で見られた。
「チャーハンを不味く作るとは凄い腕をしていますね」
「確かに」
「他人事じゃあないんですよ」
お玉の持ち手で頭を叩かれる。
エヘヘとおちゃらけて見てもその視線は変わらなかった。
言い訳をさせてもらえば、冷蔵庫の余り物を全て使い切らなければならない状況になってしまったため、味がおかしなことになってしまったのだ。
いつも不味く作る訳ではない。
洗い物が終わって手持ち無沙汰になったので、「今日はこの辺で帰ります」とテレンスさんに伝える。
しかし「今日は貴方も食べて行きなさい」と足止めを食らった。
「食べて?」
「…夕飯です。ジョルノ様とでも良いですが、ここで食べても構いませんよ」
これは嬉しいお誘いだ。
今までお裾分けとしておかずやデザートをいただくことはあったけれど、このお屋敷でちゃんとした食事をとるのは初めてだ。
ジョルノとも食べたいが、それよりも一緒に食事をしてみたい人がいる。
「…ここでテレンスさんと食べたいです」
「どうぞ」と出されたのはコトコト煮込んだビーフシチューとテレンスさんが焼いたであろうパン。
フワリと食欲を刺激する香りが鼻をくすぐる。
それからテレンスさんも簡易テーブルにかけて、二人でいただきますと声を揃えた。
「…おいしい」
「普通ですよ」
テレンスさんはさも当たり前のようにスプーンを口に運ぶ。
「私もここで暮らしたいなぁ…ダメ人間になっちゃいそうですけど」
「ここで暮らしたかったらDIO様かジョルノ様と婚姻関係を結ぶことですね。こんなちんちくりん、私は追い出しますが」
「あ、ひどい!…でも、あれ?もう一人親戚がここに来るって言ってましたよね。見たことないです」
長期の休みをもらう前にテレンスさんからそう聞かされていた。
「もう一人この屋敷の住人が増えますから粗相ないように」とのことだったのに、人どころかその人専用の部屋すら見当たらない。
テレンスさんは私の問いに顔を上げ「出て行かれました」と当たり前のように言った。
「出て?」
「ええ、自分で部屋を借りる金はあるからと。偶にこちらに寄りますが…貴方とは会ってませんね」
「でも学内で会う機会があるのでは?」
「大学生ですか」
「ええ、ディエゴという名のですが」
「…ああ」
知ってました。
気づかない私がバカでした。
そんな言葉を口にすればテレンスさんに小馬鹿にされるので、まだ熱いビーフシチューと共に飲み込んだ。