触れた胸の感触は本物だ。
ジョニィはそれを認めたくなかった。
「私の秘密はこれで全て。何も隠さずに話したんだ、仲良くしてくれないかな?」
名前は笑う。
女だと思ったら胡散臭いその笑みまで先ほどとは違うものに見えてくる。
ジョニィは自分で判断するのに困りジャイロに名前をどう認識するかの判断を託した。
ジャイロは面倒そうにうなじを掻き、「敵じゃあねーのはわかった」とため息をついた。
「お前さんは敵じゃない。ただしずっと一緒にいるような味方でもない。レース中にたまたまタイミング良く出会ったら、協力する時はする。それだけだぜ」
ジャイロのその言葉に名前は目を見開いて驚き、そしてジャイロとジョニィの手を取り感謝の言葉を述べた。
「それでいいよ。ありがとう。どうも、女としてこのレースに参加するのは難しくてね。この長距離長旅、女だと舐められたら終わりだし、女というだけで強姦の心配までしなくてはならない。心配事は増やしたくないんだ。だから少し、信頼できそうな君たちに打ち明けたんだ」
「本当に感謝する。レースの邪魔はしないから安心してくれ」と約束を取り付け、名前は去って行った。
身なりは細身の男物を着こなし、顔も中性的だが悪くはない、女性にしては長身だからかどう見ても男としての印象しか浮かばない。
しかし実際は女だ。
それに口が達者で相手を自分のペースに巻き込めるよう計算された会話の流れを作れる。
そんな奴を信用出来るかと言えば出来ないが、かえってここで険悪な仲になり敵に回られても厄介だ。
まるで嵐のような奴だ、とジョニィは思った。
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名前がこのレースに参加した目的は賞金ではなく、このレースそのものを記録した本を出版することだ。
それも新聞やラジオで知ることの出来るような一部の情報だけでなく、参加者しか知り得ないようなものを作りたかった。
そのために悪目立ちする性は捨て、話題になるような選手に近付き、協力者からは旅の話を聞き出す。
サーカス団なんて一般市民からすれば怪しい出の名前の事を訝しむ輩も居たが、必要になればピエロまで演じられる名前の演技や口車に騙されて終わった。
今話題のジャイロ・ツェペリとこれから頭角を現して行くだろうジョニィ・ジョースターと話すことは出来た。
サンドマンからレースに参加した目的を聞き出せた。
あとで接触しようと思っていたウルムド・アブドゥルがあんな形で棄権してしまったのは残念だが、今思えば注目すべき点はラクダでの参加というところだけで、人となりについてはあまり興味はわかない。
それはそれで記事にしておこう。
ここであと話しておきたいのは、ディエゴ・ブランドーだ。
英国出身のプロの騎手であり優勝候補でもある彼の事を書けば話題も集まること間違いない。
しかしジョニィやジャイロ達と違うアプローチをしていかなければならない。
彼に秘密や弱みを握らせてはならないと直感的に気付いた名前は身体を男性にしてからディエゴに近付いた。
名前のスタンド能力は、性を操るものだった。