叔父と父に頼まれて、療養中のジョニィがいる病院に来た。
簡素な、少し寒気のするような場所で、ジョニィには似合わない場所に感じられた。
寂しく辛くないようにと持ってきた荷物を抱え直して、ツンとした看護婦さんに病室を尋ねた。
「貴女、彼の彼女?」
頭から爪先までジロジロと見られて気分は良くない。彼女から目を逸らして「いいえ、親戚です」と答えれば、フッと笑って「そうよね」とカルテを抱え直す。
「あの有名なジョッキーも、腕がたたないのなら意味ないもの。ああ、立たないのは、脚だけど」
「突き当たりの病室」と顎で指した彼女を黙って許せるほど大人じゃあない私は「軽蔑します」とだけ言葉を残してジョニィの元へと走った。
壁をノックして来訪を知らせれば、視線だけこちらによこして「入りなよ」とジョニィは身体を起こす。
「久しぶり、名前」
「…ジョニィ」
「笑っちゃうだろ?まさかだったよ。こんな風になるの。脚の感覚がもう無いんだ。痛みだけじゃない、寒さも、自分で触った感触すら全くなくて自分でたまらなく気味が悪かった」
ジョニィはそれを泣かず、笑わず、怒らず、魂の抜けたような顔で言った。
お見舞いの花や身体を冷やさぬようにと持ってきたブランケットを抱える腕に思わず力が入る。
クシャクシャになる花束の包装を見たジョニィは、「それ置いたら?」と小さな棚を指差した。
「掛けなよ。どうせ世話人はしばらく戻ってこないだろうし」
「世話人?」
「どうしようもないヤツさ。…ぼくが言えた義理じゃあないか」
「ジョニィ…」
こういう時に、私の馬鹿な頭じゃどう言葉をかけていいのか分からない。
私なんかの、ちっぽけな言葉じゃ、ジョニィを助けてあげられない。
せめて気持ちが伝われば、と晒された足にブランケットをかけると「君の方が寒いだろ?」と返された。
「…ジョニィ」
「なんだい、名前」
「なんにもできない私でごめんね」
「いいよ、来てくれただけで。来てくれたのは名前だけだ」
ジョニィは覇気もなく笑った。
そんな笑い方をされたら、今のジョニィより、あんなに嫌だったこの間までのジョニィがいいと思ってしまう。
私とジョニィの関係なんてただの再従兄弟にしか過ぎないのだけれど、それでも
「ジョニィ、つらいなら泣いてよ」
その言葉と一緒に私が泣いたので、ジョニィは笑って、泣いた。
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