(プロシュートと暗殺チームのメンバー)
焦げ臭い煙がふわりと曲線を描いて私を通り過ぎて行った。
仕事が終わった合図、プロシュートの煙草の香りだ。
プロシュートが二時間前に帰ってきて暫くバタバタしていたのは知っている。
少し血が滲んでいたシャツやスーツを脱ぎ捨ててシャワー室に、それが終わったら濡れた髪もそのままに事後報告を済ませニュースを見ていた。
恐らく、仕事関係の報道を探していたんだと思う。
カタカタと揺れるヤカンを眺めながら、何時の間にかプロシュートのことを考えていた。
煙の所為だ。
その煙が、側に居なくても、ここから見えなくても、プロシュートと同じ空間に居るという事を強く思わせるのだ。
昔はどの煙草の香りも同じだと思っていたのに、何時の間にかこの煙だけを覚えてしまった。
「…沸いてんぞ」
「あ」
「あ、じゃねェよ」
シンクの淵に寄りかかり新しいタバコに火を点けるプロシュート。
煙草の香りが一層強くなる。
二人分のマグカップを取り出して、香りが強いインスタントコーヒーの粉末を中に落としていく。
プロシュートは時々排水溝に灰を落としながらそれを横で眺めている。
お湯を注げば二つ目の煙が一つ目の煙がと混じり、また独特の香りに変化した。
「砂糖とミルク」
「要ると思うか?」
「聞いてみただけ」
「なあ、」
「何?」
「…付き合うか」
「…は」
「は、って…お前、指!」
「あっ」
プロシュートに言われて、指が熱湯に触れていることに気付く。
彼は私より早く水道の蛇口を捻り、私の腕を強くつかんで冷水に晒して深い溜め息を吐いた。
「つめたい」
「自業自得だ、このバカ」
「元はと言えば、プロシュートが…」
悪い、のだろうか。
次の瞬間には唇が奪われていて、彼の服に染み付いた煙草の臭いと、口の中で不快に広がる煙草の味が生々しく伝わって来た。
頭が熱くぼうっとする。
しかし手は痛いぐらいに冷えている。
ああもう、温かいんだか冷たいんだか。
掴まれた手首はまだ痛い。