ジョジョ | ナノ
最近私の友人は付き合いが悪くなった。
そりゃあ、私だって露伴先生のアルバイトで放課後忙しい時はあるが、それ以上に彼女は忙しい忙しいと惚気てくる。
そう、惚気てくるのだ。

「それでね、彼ったら私に真っ赤な顔で告白するのよ?あんまりにもそれが可愛くってェ!」

「ウン…」

「そりゃあ…放課後の遅い時間に待ってるってあんまり接点のない男子に呼び出されたら、ある程度覚悟はするしバカじゃあないから少しは気づくわよ?」

「ウン…」

「話したこともあんまりなかったし…でもあの顔を見たら、オーケーせずにはいられなかったの!」

「ウン…」

さっきから私が同じ返事をしても、彼女は気付かずに彼についての話を続ける。

五月も終わるという頃、私は久しぶり放課後に自由をもらい友人と「ドゥ・マゴ」でお茶していた。
あんなにサバサバしてイケメンだった彼女をここまで骨抜きにしたオトコはどんなイケメンだろう、と思ったが、話を聞く限りそんな感じでもないらしい。
恋って不思議だ。
話に夢中な彼女に放置されている夏みかんのソーダは、テラス席に射し込んでくる日差しにやられて可哀想なことになってしまっていた。
私が飲んであげたいなと思いつつ、私は私で今日はリッチにキンキンに冷えたキャラメルマキアートを飲むのだ。

「やっぱり恋してこそ女子よね」

「そうだねー」

「アンタは?」

「へ?」

「どうなのよ」

尋問されるがごとく詰め寄られた私は、「えーっとぉ…」と言葉を詰まらせる。
煮え切らない返事に煮え切らない様子の彼女は、「東方くんと最近話してるじゃない」と机を指で叩いてる。
思わぬ名前に私は変な声を出してしまった。

「東方くんはなんでもないよぉ!特別な用がなかったら話さないし、しても挨拶だけで」

「そうなの?…まあ、その様子じゃ本当になんでもなさそうね」

「えへへ…よく私のことわかってるぅ〜!」

「当たり前でしょ」と彼女はやっとソーダを口にした。
氷がほぼ溶けきったそれはあまり美味しくなかったみたいで、眉間にシワを寄せていた。

「まあ、今はアルバイトで彼氏なんて暇ないけどね〜」

ストローをくわえながら話すと、行儀悪いとデコピンされた。

「アルバイト先の、えーっと、…そもそも何処でどんなアルバイトだっけ?」

友人はまだ眉間にシワを寄せている。
そういえば、私は彼女にちゃんとアルバイトの話をしていなかったことを思い出す。

「漫画家のモデルと、資料集めのお手伝い…かなあ」

「…いかがわしい漫画とかじゃ」

「違うよ!『ピンクダークの少年』って漫画あるでしょ?それ描いてる人だよ」

「げえっ、私アレ苦手〜」

「あの気持ち悪い絵の漫画でしょ?」と言われて気付いたが、私は漫画のことは知ってても一度も漫画自体を読んだ事がなかった。
前に見た海のスケッチや人物画はとても綺麗だったので、気持ち悪い絵を描く想像が出来ない。

「…私、露伴先生のことなんにも知らないのかも」

知りたいって思っちゃったのは、なんでだろう。



友人と別れ、お母さんに買い物を頼まれていたのを思い出した私はオーソンで砂糖と雑誌を買う。
露伴先生の漫画を見てみようとジャンプを見て見たが、今週は急病のため休載と書かれていたので買うのはやめた。
今日はのんびり出来たなあとビニール袋を振り回しながらオーソンの横の道を通ってしばらく、オーソンの横に道なんてなかったことを思い出す。

「な、なんで?」

見たことがないポストの前で首を傾げる。
先ほどのオーソンの近くはよく通っているから道を間違えることなんてまず無いし、そもそも見たことがない住宅街だ。

「ええ〜…ま、迷子ぉ?この歳で…?」

「あら?貴女迷っちゃったのね?」

「ぎゃあ!あ、す、すみません!」

突然目の前に現れたお姉さんに向かって奇声をあげてしまった。
咄嗟に謝罪すれば、お姉さんはクスクスと笑って「私こそごめんね?」と逆に謝られてしまう。

「この裏道、よく迷い込む人が多いのよ。私がオーソンまで案内してあげるわ。ついてきて」

「いいんですか…?」

「ええ!今は散歩してただけだもの。さ、行きましょ」

そう言ってお姉さんは私の手を取り、オーソンへの道を歩きはじめた。

ただ歩いているだけなのもつまらなかったので、お姉さんと色々な話をした。
お姉さんは鈴美さんといって、私より二つ歳上らしい。
アーノルドという大型犬を飼っていて、この裏道の辺りに住んでいると教えてくれた。
私も同じように自己紹介をして、アルバイトで毎日こき使われてる苦労を話した。

「漫画家さんって、やっぱり風変わりな人なのね」

「そうなんです!もう振り回されっぱなしで…!」

「ふふ、でも振り回される割には話してる時の貴女の顔、すごくイキイキしてたわ。…あ、ほら、ここまで来れば大丈夫ね」

「あ!オーソンだ…!」

やっと見つけた見慣れた街並みに安心感を覚える。
鈴美さんにお礼を言えば、もう小道を見つけたらこない方がいいと言われた。
迷子になるからだろうか。

「もう少し鈴美さんと話したかったなあ…露伴先生のこととか…」

「…露伴、先生?」

「あ、私の雇い主なんです!有名な漫画を描いてる人なんですけど…あれ?知り合いでした?」

「えーっと、そんなものかしら?ずっと昔の、幼なじみかな?よろしくって伝えといてくれる?」

「はい!」

それじゃあまた、と鈴美さんとまた会えたら良いなと思いながらオーソンで別れた。
鈴美さんが少し寂しそうな顔をしていたけど、それは露伴先生に会えばなくなるだろう、と私は能天気にまたビニール袋を振り回して帰り道を歩いた。




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