新歓も終わって一息ついた四月末。
ジョニィの骨折が治りギブスが取れると聞いた私は、一緒に病院についてきていた。ジョニィはすぐに終わるとは言っていたものの、チェーンソーで何かを削る音が聞こえてきていろいろ不安になってくる。
飲み物でも飲んで落ち着こうかと考え立ち上がった時、同じタイミングで診察室から松葉杖をついたジョニィが出てきた。
「待たせてごめん」
「う、ううん…いいんだけど、その…すごい音してたから…」
「ああ、ギブスの解体してたから」
ジョニィによれば、チェーンソーのような電動ノコギリで固いギブスを切断し取り外したらしい。想像しただけで痛々しい光景で顔を歪める私を見て、ジョニィはケラケラと笑った。
「右足はもう大丈夫らしくて。ただ、左足の方は様子見で固定しとくことになったんだ」
「そうなんだ…それにしても」
「ん?」
「ジョニィって、背が高いのね…」
今までジョニィは車椅子に乗っていたからわからなかったけど、こうして並んでみると、ヒールの靴を履いている私よりも10センチ程高い。
「ジャイロとかよりも低いとは思うけど…名前先輩よりは高いし、ちょうどいいだろ?」
「ちょうどいい?」
「この身長差」
ね、と笑うジョニィにつられて私も笑った。
松葉杖のまま長距離を歩くのは過酷だと言うことで、病院までお迎えが来ることになっていた。
てっきりジャイロが来ると思っていたのだが、ジョニィの話によればお兄さんが車で来るらしい。
なのでジョニィと二人、駐車場の近く木陰のあるベンチに座ってそのお兄さんを待っていた。
「ジョニィのお兄さんかあ…顔似てる?」
「似てないんじゃあないかな…ぼくと違ってブルネットだし」
「ブルネット?」
「黒髪ってこと」
「へえー…やっぱりそっちは髪色が違ったりする兄弟もいるのかあ」
ジョニィはこんなに綺麗な金髪なのに、真っ黒な髪のお兄さんなんて想像が出来ない。
でももしかすると、顔や体格が似ているのかもしれない。
期待して待っていたら、私たちの目の前に一台の車が停まり、中から爽やかでかつとても体格のいい男性が顔を出した。
「ジョニィと…彼女なのかい?」
「えっ、お兄さん?」
「うん、兄のジョナサン」
ジョニィとはまた感じのちがう、優しそうなマッチョのお兄さんだった。
車に乗り込みながら、失礼だとは思いつつもジョニィとジョナサンさんを見比べていたら、二人してクスクスと笑い始めた。
「似てないって?」
「そういうわけじゃ…」
「ジョニィは母さん似で、僕は父さん似だからね。わからなくもないよ」
エンジンをかけながらジョナサンさんは「もう一人ジョセフって兄弟も、父親似なんだ」と続ける。
もう一人こんなマッチョがいるなんて私の足りない頭じゃ想像がつかなかった。
「三人で暮らしてるの?」
「いや、従兄弟とだから…八人だね」
「…八人?」
「僕たちジョースター家の三人、従兄弟の空条家と東方家で、合わせて八人だね」
二人で眈々とそう語るが、八人で住んでいる家なんて想像がつかない。
思い付くのはよくテレビで放送している大家族特集だが、ムリして八人で住んでいるなんてこの二人の雰囲気からは考えにくい。
「あ、名前先輩家を見にくる?」
「ええ、いやあ…急にお邪魔しちゃあ悪いので、また今度」
「謙遜か…ジャパニーズだね」
「そうかなあ…」
ジョニィとのそんなやり取りをジョナサンさんにバックミラー越しに見られ、クスクスとまた笑われてしまった。