ディエゴはあれからずっと、我が家に居座っている。
まだ大学生ということもあり、ある程度の仕送りはあるしアルバイトもしているからディエゴ一人くらい増えたって金銭面での苦労はそこまでないのだが、精神的にくるものはある。
ただでさえ家に人がいるということでストレスはたまるのに、ディエゴは私を誰と勘違いしているのか、やたらとくっついてくるのだ。
現に今も、スクランブルエッグを作っている私の腰に手を回して隙間なくくっついてきている。
「お皿取りたい」
「ん…」
「朝弱いなら寝てなよ」
「嫌だね」
「こげる」
「仕方ないな…」
やっとディエゴが離れてくれた時にはスクランブルエッグの底面が茶色くなっていた。
これはディエゴの分にしよう。
二人分の朝食プレートが出来たので、ディエゴにフォークとスプーンを持ってくるように伝えてテーブルにつく。
テレビでは杜王町の行方不明者についてのニュースで騒いでいた。
クロワッサンを齧りながらチャンネルを情報バラエティ番組に切り替えて、ディエゴを待つ。
「パン屑がついてる。こっちを向いてくれないか?」
「ん…?」
後ろに立つディエゴに分かるわけがないのに後ろを向いてしまい、そのまま唇を奪われた。
キス自体は可愛らしいものだったのだが、大げさにリップノイズをたてていくものだから憎らしい。
「美味かったぜ?」
「このやろう」
こんなんだったら承太郎さんに預ければよかった、と私はディエゴを睨んだのだが、ディエゴは何も気にせず私と向かい合うように座った。
そこからは会話もなく、部屋にはタレントの笑い声とフォークと皿が触れる音しか響かなくなった。
そしてディエゴの皿と私の皿の上が綺麗になった頃、「オレの話を聞いてほしい」とディエゴは口を開いた。
「オレは、確かに違う次元の人間で、自分の意思や能力だけではなくここに来た」
ディエゴが自分の話を始めたのは、出会った日以来だった。
「そうだね」と相槌をうち、そのあとの言葉を待つ。
「ただな、オレには目的があった。その目的こそがお前だ」
「わたし?」
「名前は、…オレの次元の並行世界では1980年のレースに出場していて、そしてオレは名前に恋をした。なんとしても手に入れたい。だからレースで優勝してお前を買うつもりだった」
「ただあまりに危険なレースだ、どの世界のお前も、遺体やダイヤの事件に巻き込まれて命を落とした。何度も何度も違う世界のお前に会って同じ結果を繰り返した。そして今、やっと会えた平和な時代で世界の決まりに囚われないお前に会えた」
ディエゴの目は至って真剣で、しかもギラリと鈍く光った気がした。
そこまでディエゴを夢中にさせた違う世界の私って一体何者なんだろう。
「待てよ…、それって私の顔をした私じゃあない人のことだよ。ディエゴには悪いけどさ」
「いや?どの世界に行っても、名前は変わらないぜ?」
「はあ…」
「因みに、オレが名前と話したのはこの世界が初めてだ」
「えっ、なにそれ怖い」
「冗談だ」