ディエゴ・ブランドーのことは知っていた。
昔、本当に昔、まだ私の曾祖母すら生まれていない時代にアメリカであった大きなレースで優勝したのが彼だ。
いろいろあって優勝は取り消され、彼自身も行方不明になってしまったらしい。
遠い親戚の騎手の叔父が、そんなことを言っていたのを私はまだ覚えている。
良い家柄の人ではなかったそうなのだが、綺麗な顔立ちとその強い心で誰からも認められる存在になったんだとか。
叔父は言った、「素晴らしい小説だった」と。
じゃあなぜ、そんな昔の綺麗な騎手が、私の家にいるのだろうか。
私は正座をして、彼は胡座をかいて向かい合っている。
余裕しゃくしゃくの顔で、でも彼はとても綺麗な顔立ちだから不快にはならない。
彼が言うにはこうだ。
『オレ、ディエゴ・ブランドーはレースに優勝した後、遺体によって殺された。詳しいことを話すとお前のキャパシティがパンクしそうだから省くが、一度、いやこちらの世界ではオレは二度死んだ。稀に超能力のような力を持った人間が居て、オレはそいつによって並行世界からこちらに呼ばれたんだ。ただ、来る世界も時代も間違えて』
そういうことらしい。
こんなおかしな話信じられる人間のほうが少ないと思うのだが、生憎その超能力というものに心当たりがあった。
「あのお、もしかして」
「なんだ」
「スタンド使いなのでしょうか」
「…お前もスタンド使いか」
「ええ、まあ」
この杜王町にはなぜかスタンド使いが多いので、ちょっとやそっとの不可思議現象で驚かなくなっていた。
スタンドでそうなったなら話が早い。
しかし引っかかる。
仮に時代を超えて人を呼ぶスタンドがあったとしても、彼が言うには世界を超えて、私から見れば次元を超えて、人を呼び寄せる能力なんてあり得るのだろうか。
「…ねえ、私と考えても拉致あかないし、頭の回転が良い人を交えて話さない?」
「根性ないな、お前」
「仕方ないじゃない、いくら考えたって頭痛くなるだけだし、それなら結論が出ないにしても他の人に考えてもらいたい」
「そういうところは世界が変わっても変わらないんだな、名前」
「あれ?私、名前を教えてないはずだよね」
「それはあとで教えてやるさ、オレの愛しい名前」
そう言って彼が私の手の甲にキスをして、「ああややこしいことになってしまった」と心から思った。