杜王町に10年ぶりに戻ってきた私が一番楽しみにしていたのは、「大人になって再開できたら結婚式をする」なんて可愛らしい約束をした幼馴染との再開だ。
荷物の片付けもそこそこに、昔よく遊びに行ったお隣の東方家に向かいチャイムを鳴らすと、昔と変わらず、いや昔よりぐっと大人の女性となった朋子さんが出てきて、私をぎゅっと抱きしめた。
く、くるしい…。
「やだ!すっかり可愛くなったわねー!アンタの母さんに似て美人だし…身体も成長しちゃってェ〜」
「と、ともこさん…くるしいぃ…」
「アラヤだ。思わず力が入っちゃった」
苦しさから白目を向きそうになったギリギリのところで開放され、ぷはっと息を吐く。
そんな私を見てケラケラと笑う朋子さんは、私の顔を覗き込んで「ちょっと待ってて」と頭を撫で、次に「仗助ぇー!ちょっとこっち来てー!」と大声で家の中に居るであろう仗助くんを呼んだ。
それから少し間をあけて、「ゲームで手が離せね〜んだよォ」と男の人の低い声が聞こえた。
「せーっかく名前ちゃんが来てるってのに…アイツったら」
「仗助くん声低い…」
「当たり前じゃないの。ちょっとー!名前ちゃん来てるわよォ?それでもゲームが大事ー!?」
「ぎゃああ朋子さん!私こころの準備が…!」
「アンタ、仗助に会いにきたんでしょ?」
「うう…」
確かに仗助くんに会いたくて東方家を訪れたものの、あんな声を聞いてしまっては緊張してしまって心臓がもたない。
こっそり帰ってしまおうかと思ったが、朋子さんに首根っこをがっちり捕まえられてしまい、見事仗助くんとの対面を果たした。
う、わあ…リーゼント…。
「名前ちゃん…?」
「そーよ、名前ちゃんよ」
「はい、名前です…」
きょとんとした顔をみて、可愛いと思ってしまった。
昔は私より小さかった背も見上げるくらいの差がつき、体格も全然ちがう。
けれども凛々しい顔立ちにキュートな垂れ目は間違いなく仗助くんだ。
かっこよくなるなとは幼い頃から思っていたけれども、まさかここまでとは。
髪型は、ちょっと、あれだけれども。
仗助くんは襟足に手を当てて少し顔をそらして「久しぶりだな」と言ってくれた。
「なにアンタたち、お互いに照れちゃって。小さい頃には素っ裸で一緒にお風呂に入ってたのに」
「も、もう!朋子さんからかってる…!」
「からかい甲斐のあるアンタたちが悪いのよ。じゃ、…アタシは煙草吸ってくるから、二人でどこか行ってくれば」
「はい、お小遣い」と仗助くんに二千円を渡して朋子さんは家の中へと消えて行った。
仗助くんと二人で顔を合わせてみるが、沈黙が流れるだけだ。
それにしても、リーゼント…
「…ん?」
「いや、あの、あはは…」
「まあ、別にいいけどよォ〜…。ドゥ・マゴでも行くか?」
「えっ、どこ?」
「覚えてないのか?喫茶店だぜ、駅前にあったろ?」
「あった!…あっ、ありました…」
「何で敬語なんだ?」
「何でもありましぇん…」
しばらく仗助くんとはまともに話せそうにありません。