ジョジョ | ナノ

「明日は海にいくぞ」

「え?」

この日は用もなく露伴先生に呼ばれ、二人でお茶をしながらテレビを見ていた。
本当は用がないなら帰りたかったのだが、なかなかお目にかかれない最高級ゴマ蜜団子をチラつかせた露伴先生の策にはまってしまった。
再放送のドラマについてあれこれ見解を述べている途中で「海に行く」とは、急すぎではないだろうか。
まだ四月である。

「まだ早いですよぉ。こんな肌寒いのに…」

「取材に決まっているだろう。君は荷物持ちだ。どうせヒマだろ?」

「うう…」

確かにヒマである。
しかしここでヒマだと言い切ってしまえば露伴先生の思うツボなので、無い予定を必死に記憶の中から探してはみたものの、無いものは無い。

「予定は無いな?」

「無いです…」

制服で来いよ、とそれだけを伝えてから露伴先生は仕事場へと戻って行った。
こんな寒い時期だし、泳げないし、露伴先生とだし、行ってもつまらないに決まっている。



なんて思っていた私がバカでした。
夏とは違って人が殆ど居ない海はその淋しげな景色がとてもロマンチックで、恋人と来るにはピッタリな場所に思えた。
だけど、私は露伴先生と一緒で、デートなんて素敵なものではなく、あくまで取材。
ガッカリである。

「何で口を尖らせているんだよ」

「なんでもないです…」

「…それだ」

「え?」

「…いや、ぼくもなんでもない」

気にするな、と露伴先生は持ってきたレジャーシートを広げ、準備が終わると海の絵を描きはじめた。
私は何をすれば良いのか聞いても全く喋りもしないので、辺りを散歩することにした。

波打ち際のすれすれの所を歩きながら、露伴先生との奇妙な関係を考える。
漫画家と女子高生、雇い主とアルバイター、十五歳と二十歳、主人と下僕…最後が一番しっくりくるのが怖い。
親しい間柄ではないけれど、露伴先生は私のうじうじした性格を見抜いてかズバズバものを言ってくる。
きつい時もあれば、それがちょうどいい時もある。
ただ服装はおかしい。

「顔はいいけど、難ありだよねぇ…」

友達としては素敵な人だけど、恋人としては付き合ってられないかも!と大きな独り言を言って、それこそ一人で騒いでいたら、真っ白なコートを着た人と目が合った。
真っ白なコートのくせに海の中に入ってるし、その手に持っているのはヒトデ、だ。
気持ち悪いヒトデをみてしかも2メートルはありそうな大男がそれを手に持っているなんて、これは、まさしく。

「へ、へへ変態さん…!」

「なんだ?」

「ぎゃー!」

色気のない叫び声をあげて来た道を全速力で引き返す。
とりあえず露伴先生のところまで戻れば平気だろうと思った私は、一度砂に足をとられ転びつつも「砂だらけできたない」と罵られつつも露伴先生の背中に隠れることに成功した。

「騒がしいヤツだな」

「だって…!」

「2メートルが!男が!ヒトデで!」と訴えても露伴先生には通じない。
確かに私の言葉選びも悪かったのだけど、少しくらい汲み取ってくれてもいいじゃないか。
ぶう、と唇を尖らせたら露伴先生はため息をついてスケッチブックで私の頭を叩いた。

「痛い」

「嘘をつくな。…帰るぞ」

「ええ?もう良いんですか?だってまだ一時間くらいしか…」

「十分描いた」

目の前に突き付けられたスケッチブックには、目の前の光景と全く変わらず鉛筆で描かれた春の海岸がある。
「ほわぁ…」と思わず声に出たが、風に吹かれその後ろのページがチラリと見え隠れする。

「二枚も描いたんですか?」

「フン」

二枚目を見ようとしたらスケッチブックを隠された。
別に見るくらいいいじゃないか…と露伴先生にガンとばしたら、睨み返された。ひい。

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