ジョジョ | ナノ
どこかの国の小説に、「何々は激怒した」と始まる話があったと思う。
まるで子供が読むような内容だったので細かくは覚えていないが、シンプルな文面ながらも主人公の怒りは十分に伝わるものだった。
だからこう言えば誰にでも伝わると思う。
俺は激怒した。

俺にはお気に入りの女の子が居た。
街外れの住宅街からさらにまた外れた所にある俺達のアジト、そこから一番近いバールでアルバイトをしている日本人の学生だ。
純日本人だという彼女の言葉が信じられないくらい白人のように色が白く、唇は赤く、黒い艶やかな髪は夜空よりも闇のようで、瞳は甘いカラメルを煮詰めた茶色。
童顔なのに背の高い彼女の容姿は一見アンバランスで、しかし美しく、有名な芸術作品の一つのようでだった。
俺の中で、そんな彼女は例えるならそう、聖母マリア。
名前は名前と言った。

俺が怒っているのは名前に対してではない。
名前は俺の中では絶対的な立ち位置に居るから、そんな彼女に対しては憎悪どころか悲しみも嫉妬も負の感情は湧かない。
代わりに、修道女が神に祈るような、大切に育ててくれた親に対する子どもの愛のような、そんな感情はある。

では何に怒っているのか。
それはこの世の神に対してだ。

俺が真っ当な仕事も精神もしていないことは否定しないし今更赦しを乞うこともしないが、生活態度や仕事以外のことに関しては他のどの人間よりも真面目で優秀だったと思う。
ある程度規則正しい生活をして、女性なんて母胎としてしか見ていなかったので関係を持つことは一度だってなかったし、何より一人の人間を敬い慕い愛し信じて生きてきた。
なのに、なのに何故彼女は俺を愛してはくれないのか。
彼女に非は無い、ある訳が無い。
俺だって彼女に好かれるために何だってやったし、彼女に対してはいつだって誠実で真面目で正しい人間でいた。
悪いのは彼女でも無く俺でも無く、俺と彼女を取り巻く環境、人間、時間全てだ。
それを創り出したのは神だ、悪いのはアンタだ神様。





「ソレ、本気で言ってんのかよ」

プロシュートはタバコの煙を燻らせながら、気持ち悪いなと眉間に皺を寄せた。

「至って本気だ。彼女のことで冗談なんか吐くわけがないだろ。賭けてもいい」

「しねーよ、そんな賭け」

未だにグチグチと御託を並べるメローネにだんだん嫌気が差してくる。
お前の恋も気持ち悪さも俺の知った凝っちゃない。一人で孤独に勝手にやってろ。
そんなプロシュートの気持ちがメローネに届く筈も無く、しかし話を早く切り上げてしまいたかった彼は神に向かって死ねやら殺すやら物騒なことを吐くメローネに「そんなに神を冒涜したらもっと嫌われるだろーな」と灰皿にまだ長いタバコを押し付けた。
しかしそれが裏目に出てしまい、またもや一人でギャアギャアと騒ぐメローネに泣き付かれてしまい、ようやく一人になれたのはメローネをボコボコに蹴って気絶させた数十分後だった。



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