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Jの身体は浮き輪につながれた命綱によって海中1.5メートルのところで留まっていた
バングルを付けた右腕が上がり、体はぶら下がった状態にあった
(……いき……できない…けど…くるしくない)
Jは不思議そうに海中を見回した
青く揺れる世界
海面からいくつも光が差し込みキラキラしている
『…―…を―…ます』
(…?)
突然Jの頭の中に声が通り過ぎた
『―…脳波との比較を…』
『…―電子回路の見直しは―』
『濃度を+5に、人口皮膚の様子は−…』
(??…な…に?)
Jの頭の中にいろいろな声が響き、ふっと視界が揺らいだ。沢山の泡で視界が遮られるガラスの筒の中、体に繋がれた沢山のコード、電子機器の音
Jは脳裏に見えるもの聞こえるものに対して、何なのかわからず、ただ目を丸くした
(……Jは…Jになるまえが……)
『ピーッピーッピーッ!!!』
突然Jの頭から機械音が発せられた
「…う…――」
『プツンッキュゥーン…』
Jの中で、矛盾によるパニックを防ぐための自己防衛プログラムが働き、Jは活動を停止した
***
「…J!!」
(…無事でいてくれ!!)
ジョーは必死に浮き輪を目指し泳ぎ続け浮き
輪付近にたどり着くと息を吸って海中に潜った
(!!…J!!)
ジョーに抱かれ漂うJはピクリとも動かない。最悪な結果がジョーの頭をよぎった
「…ぷはぁっ!!」
ジョーは海面へ出ると浮き輪を掴みJを背負った
「J!J!!…くっ」
(早く岸に……)
ジョーは砂浜へ向かい泳ぎだすも、自分が沖へ押されていることがわかった
「…!!…離岸流か!」
『離岸流』
砂浜へ押し寄せる海流が生む局所的な引き潮。最大幅は10メートル以上になり、流れに乗ると時に秒速1メートルもの速さで沖へ流される
(だからJはこんなところまで…)
ジョーは顔をしかめJから目を離したことを後悔した
(…とにかく離岸流から出ないと…)
ジョーは離岸流から抜け出すため、冷静に岸と平行に泳いだ。しばらく泳ぐと波の流れが変化し、岸へ向かうのが分かった
(これで岸に行ける…!)
ジョーは岸を目指し泳ぎ始めた。その間もJは全く動かずジョーに背負われたままぐったりしていた
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