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「あ!動いたー!」
砂の上に置かれた小さな巻き貝は小さく動いて、カサコソと足が出てきた
「ああ、ヤドカリかぁ」
「ヤドカリさん?」
空になった巻き貝に住む小さな生き物を、Jは興味津々で見ていた
「はは、ちっこいのもいたもんだな」
ジェットが笑うとJはキラキラした笑顔を向けて
「ねっねっ動いたでしょお」
嬉しげに言った
「本当、よく見つけてきたね」
「あっちでね、動いてたの!」
「…じゃあ、お散歩中だったのかな」
ジョーがポツリと言うと、Jはハッとして、持ってきた時と同じようにヤドカリを抱えた
「おっどうした?」
「Jかえしてくる!ヤドカリさんのパパとママが心配しちゃう!」
Jは焦った様子でポテポテと走っていった
「…クス…君が言ってることをちゃんと覚えてるんだね」
「…だな」
それは、お散歩や買い物の時、Jによく言うこと
好奇心旺盛なJは色々なものが見たくて、知らず知らずのうちに2人から離れてしまい、しばしば迷子になることもあった
そんなJに、ジェットはよく言い聞かせる
『Jぇー遠くに行っちゃダメだよ』
『行っちゃダメ?』
『…そ、ママが見えるところにいてくれないと』
『いてくれないと…』
『Jがどこにいるか分からなくなっちまう…』
「−ジェットは心配性だよね」
「俺は、普通のつもりだけどな…」
散歩中に話していた時、ジェットは悲しそうな顔をして、それをJは覚えていた
『J、一緒にいる!』
“離れて不安にさせること”を“してはいけないこと”として認識し、そして他の人に対しても同じ考えを当てはめて、物事をみるようになった
「ごめんね、ヤドカリさん。さっき、ヤドカリさんはここにいたから、ここに下ろすね」
波打ち際の砂の上に、Jはそっとヤドカリを下ろすと、歩き出すまで見送り、波に向かってせかせかと歩くヤドカリに小さく手を振った
「ばいばーい」
ヤドカリはあっと言う間に波間に消えて、見えなくなった
「………」
Jはヤドカリが見えなくなると、しゃがんだまま、光が揺れる波を見ながら少しうつむいた
「…いなくなっちゃった」
何かが芽生えた気がして、でもJにはそれがなんなのか分からなかった
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