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8月
紫陽花をキラキラと濡らしていた雨期が過ぎて暑い夏がやってきた
蝉は毎年盛大に、その小さな体で求愛の歌を謳い続ける
「ジェット、僕もう行くからー」
3人が暮らすマンションアパート。玄関で靴を掃き終えたジョーがキッチンへ向けて声をかけた。キッチンからパタパタとスリッパの音がして、エプロン姿のジェットがドアを開けて廊下に出てきた
「今日帰りどのくらいだ?」
「遅くなるかも、夕飯までには帰るから。」
「ん、行ってらっしゃい」
「いってきます。あれ?チューは?」
「…あーもぅ!」
頬にキスをもらって、ジョーは意気揚々と家を後にした
「…さて」
(戸締まりはしっかり…)
ジェットはドアが閉まるのを確認してから、ドアにカギをかけてキッチンに戻った
「お、全部食べたな、えらいえらい」
「ごちそうさまでした!」
ジェットはテーブルにある皿を片付けながら、朝食を食べ終わったJの頭を撫でた
***
ジョーとジェット、そしてJが一緒に暮らし始めて半年が過ぎていた。
ジョーは引っ越し会社の仕事を始めて、ジェットは家事に専念するようになった
ジョーが仕事を始めた理由はジェットが家事を大方覚えたのと、ギルモア博士からのお達しがあったためだった
『一般的家庭生活に近づけるため、どちらか職に就いて欲しい』
それが博士からの伝言だった。見計らっての指示だったのか、ジェットは洗濯と掃除、簡単な料理ならジョーがいなくても出来るようになっていた
「本当は俺が働くつもりだったのに…外国の人間にはまだまだ堅い国だなぁ…」
リビングで掃除機をかけながら、ジェットは1人ごちた。ソファで絵本を読んでいたJはジェットの独り言に顔をあげた
「?」
それに気づいたジェットは掃除機のスイッチを切って、Jへ顔を向けてニコッと笑った
「掃除終わったら公園行こうか、キャッチボールしよう。
「わぁい!」
Jはパァッと顔を輝かせてソファから降りると、
「J、じゅんびするー!」
そう言って、廊下の突き当たりにある物置部屋に駆けていった、ジェットはフッと軽く笑って、また掃除機のスイッチを入れた
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