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紛争の続くA国とB国の狭間にあるBGの拠点に監視室と書かれたあまり広くはない部屋があった

部屋中に置かれ壁まで覆う複数の薄型の画面に両国を映した定点カメラの映像がせわしなく流れていく。天井には巨大な楕円の機械がチカチカ光りあらゆる情報を蓄積している

中央には扉を背にした丸い卵型の椅子がありその背もたれにすっぽり収まるように少年が座っていた。ゴーグルのようなものを着けて机一面に置かれた大きなキーボードを操作している

栗色をしたセミショートの少年の頭には幾つもコードが伸び天井の楕円の機械に繋がれていて、うち一本はゴーグルに接続され機械からの情報を映像化しているようだった

「……」

少年は手元を見ずに操作を続け巨大な楕円の機械が応えるようにチカチカ光った

「……」

[サイボーグ000(トリプルゼロ)シリーズの経緯と記憶データを参照。複製保存された主観的映像を再生]

ゴーグルが一瞬暗くなりフラッシュのように瞬く間に情報が映し出される

「…ティズの扱いだけ少し違うな…」

映像を見終えて少年が呟いた

「……。」

[改造前の個人データ、サイボーグ000(トリプルゼロ)シリーズ開発計画の全記録をダウンロードします]

「……YES」

[ビーッビーッ保護情報のためダウンロード出来ません。]

「……ディスクには無理。当たり前か」

[パスワードを認証しました。現在接続中のブレインバンクと情報を同期します]

「……同期完了。観覧履歴を抹消」

コンコン

「!」

ドアのノック音に少年はティズたちに関する情報欄を閉じた

「ティティ、そろそろ調整の時間だよ。」

「ティズ、ありがとう。すぐ行くよ」

ティティと呼ばれた少年はティズに振り向くとキーボードをタップし機械からコードを外した。パラパラと落ちたコードをポニーテールのようにまとめて軽くかきあげると椅子から立ち上がった

外したゴーグルを机に置くとティズに目を向ける。淡い虹彩の瞳は長いまつ毛に縁取られていた


二人はメンテナンスルームへ向かうべく基地内の通路を歩いた。誰かとすれ違うこともなく沈黙が続いた


「ねぇティティ、君は『裏切り者のサイボーグ』たちを知ってる?」

ティズが何気なくティティに聞く。
ティティは少し間を置いて淡々と答えた

「ええ。この国に現れたと聞いてBGのメインブレインから情報を探して調べました。」

「……。悪いひとだと思う?」

ティズのつぶやくような質問に一瞬目を向け

「サイボーグ部門にて開発した9体のサイボーグが脱走しBGを妨害している。という、客観的な情報と9体の特性などが記されていただけなので、そこまでは記録にありませんでした。…直接対峙したティズは疑問を持っているようですね。」

見透かしたようにティズの様子を述べた

「…わからないんだ。僕はBGを正義だと信じている。それを阻むなら彼らは悪のはずだ。でも」

「でも?」

「とても優しかったんだ。」

「……。」

ティティは悩むティズの横顔をしばらく見て

「なら、もう一度会って確かめるしかないでしょうね。」

少し優しげに言葉をかけた

「でもスカール様は会ってはいけないと言っていた」

「『敵を発見したので討伐に向かった』では、理由になりませんか?」

「え」

「私はこの基地の目であり耳です。発見次第真っ先にティズに教えましょう。」

「い、いいのか?」

「出動要請をしたとき偶然ティズが出られる体勢だったと言えばいいだけです。私はスカール様にティズを戦いに行かせてはいけないと言われていませんから。」

「……。」

「さっきも言いましたが私はここの目と耳。外には出られません。だからティズ、あなたに手足になってほしいのです」

「……わかった。ありがとうティティ」

「いえ。疑問に対して人は抗えないものです」

「ティティもそんなこと思うんだね」

「人並みには。」

二人は穏やかな雰囲気で会話を続けた

「あ、ティティ着いたね。じゃ僕はあっちだから」

ティティのメンテナンスルームに着くとティズはティティに手を振って小走りでその場を離れた

「……」

ティティはスッと無表情に変わるとメンテナンスルームへ入っていった。脳内通信を開きネット網から009たちの潜伏するA国にハッキングをかけメールを送信した

[以下の場所にて待つ。座標と日時を暗号化。送信。]

「…―なら、解けるでしょう」

ティティは小さく微笑むとメンテナンスルームにある小窓から空を見上げた

「もう終わりにしなくては」

見上げる目は強い意思を思わせた。

真上で輝く太陽は眩しくBGの拠点を囲む鬱蒼とした密林に降り注ぎ熱気を帯びた風が漂うようにゆるゆるとそよぐ。

移り変わる時は緩やかにしかし確実に夜へ進んで行く。

“その時”へと向かって運命は動き出していた。



つづく

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