┗3


食事を済ませボトルの中身が1/3に減った頃、俺は少し酔っていた

俺がほとんど一方的に話しているからか、それともコイツが酒に強いのか

同じ量を飲んでいるはずなのにソイツは頷いたり軽く笑ったりしていつもと変わらない様子でなんだか不公平な気がした


「……なんか俺ばかり喋ってるな…っていつものことか」

普段はなんでもないのにこの時はちょっと拗ねた言い方になった

「……」

「ハハッそんな困った顔するなよ。お前が口下手なのは昔から知ってる。ただちょっと…すまない。酔ったらしい…水持ってくる」

俺が立ち上がろうとするとソイツが先に立ち上がり制止して

「持ってくる」

そう言うとキッチンへ向かい冷蔵庫を開けた

「……」

ボトルに入ったミネラルウォーターをコップに注いでいるらしいアイツの背中がやたら広く見えた

「なぁ…子供の頃、俺がいじめられていたの時の事、まだ覚えてるか?」

「…」

「それまで1度も話話したこと無かったのに…助けてくれた」

俺はぼんやりソイツを見ていた。ソイツはしばらく動きを止めて水のボトルを冷蔵庫にしまうと振り向き水の入ったコップを持ってソファに戻ってきた

コップを差し出しながら穏やかに笑って

「余計なお世話だ、と言っていた」

懐かしそうに言った

「ハハッ、そうだったな」

俺はコップを受け取って一口飲んでテーブルに置いた

「…あの時は不思議で仕方なかった。なんで俺を助けてくれたのか」

ソイツはソファに座り肴に買ったカットチーズを口に入れながらこっちを見た

「……」

「本当はありがとうって言いたかったんだ…でも、あんなこと初めてで…戸惑っちまった。」

俺の言葉に優しく笑う。好意的な時にする、よく見る顔だ

「……」

「なんてことないよな。お前は正義感が強くて虐められているやつを放っておけなかっただけで…」

俺は、なんだか胸が痛くなってきた

「別に、俺じゃなくても…助けた」

自分で言っているはずなのに、チクチク胸を刺した

「……」

「ありがとうな、今回もまた、お前に助けられた…お前を親友に持って俺は誇りに思うよ」

「……」

いつも通り返事はなかったがソイツの手が俺の頬を触ってハッと前を向くと顔がやたら近いことに気づいた

「え…なに……」

全部言う前に口に何か当たった



「……」

一瞬の間は数十秒にも感じた

ただ口に当たる何かの感触だけが強く印象に残った

「……」

しばらくして顔が離れた。息を止めたまま目が合う。

「……フ」

ソイツの吐息を感じた瞬間、顔が一気に熱くなった

「なっえっ。えっ?!」

ゆっくり反らされたソイツの顔は少し赤らんでいてキスされたことを確信した


そして、自分がどう思ったかも……


「……あ」

「ごめん」

それだけ言うとソイツはソファを立とうとした

無性に腹が立って腕を掴んで引き留めた

「お前からそんな言葉聞きたくない!」

俺は今どんな顔でコイツを見ているんだろう

「……」

驚き戸惑った顔で、困った様子で俺を見てるコイツに俺はどう映っているだろう

「言えよ。本当に、言いたいこと…」

ソイツは心配そうな顔で俺を見て、俺の目元を拭った

「……」

「前に言ったろ…お前の言葉なら…どんな結果でも受け入れられるって」

声が震えたけど言わずにはいられない

「言えよ…」

「……」

今までで一番長い沈黙が続いた

不安より期待が膨らんでいくのを感じる

強い意思を宿した眼差しがそうさせた


「…カル、」

「……」

「   」


俺はただ無言で頷いて

「……」

触れるソイツの手に促されるまま目を閉じて顔を寄せた

「…っ」

唇に触れるだけの長めのキス

最初はよく分からなかったけれど背の方からソワソワと鳥肌が立つのを感じた

「……」

一度離れて気遣うように首を傾げる

「…大丈夫だ、少し落ち着かないけど」

笑いかけると少しホッとしたような顔をして俺の座るソファに移動してきて今度は両肩を引き寄せられた

「……んっ」

さっきより深く唇が触れる。ゆっくり舌が入ってきた。積極的なのに少し力んでいるようでその緊張が唇から伝わった

「…ハァ…ん」

また離れて今度は抱きすくめられ

「…欲張っていいか」

耳元でささやかれ首にキスされた

「え…ちょ、ハハッくすぐったい」

首筋から項にそって小さく音を立ててソイツの唇が触れる

「ん…ちょっと…もう止め…」

こそばゆさと変な感覚に顔を反らし手でかるく退ける。ソイツは退けた手を取ると優しく握って

「部屋、片付いてたろ」

突然聞いてきた

「…え?…あ、ああ」

「お前が来るから…急いでかたした」

「ハハッ…」

珍しくよく喋るソイツに笑って返すと

「寝室も、片付けてあるんだ」

真剣な顔で見つめられた

「……ぇ」

「……」


いつもの無言が嫌に熱っぽく感じた




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