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武器基地の壊滅から数時間後

周辺で待機していた002、009はA国の兵士たちと合流した

ティズに発砲し逃げた兵長の男が改めて二人に敬礼し基地内から助け出したBG兵を拘束したまま引き取り、ほどなくして到着した軍用トラック数台と共にA国へ帰還した

A国に先に戻っていた003、004は二人を見つけると駆け寄り声をかけた

「大丈夫?途中通信が切れて心配したのよ」

003は二人を見て外傷が無いことを確認すると顔を見上げた。

002はうつむいたまま何も言わず009が代わりに答えた

「スカールが武装ヘリでティズを…子供型兵器を迎えに来たんだ。必死な様子で回収していた。」

009は簡単に武器基地について話し他のメンバーたちと合流するとドルフィン号へ戻った。

官邸にいたギルモア博士は大まかに状況を知ると通信を切って代表者へ再度会わせて欲しいと秘書に伝えた


「いやはや武器基地を制圧したようで。正直、驚いています。まさかこんなに早く有益な知らせが届くとは」

代表者は報告書を眺めながら驚いた様子で額の汗を拭った

「……」

「あなた方なら、本当に戦争を終わらせてくれる。そんな気がしてきました。まさに救世主だ」

興奮気味の代表者を横目にギルモア博士はゆっくり口を開いた

「報告によると武器基地を制圧した後に、こちらの兵士たちが来たそうです。基地の位置を知らないはずだったのに不思議に思いました。」

「…それは」

代表者が言い淀(よど)むと博士はジロリと顔を見据え

「我々の通信を傍受していましたか。」

確信を突いた。代表者はグッと口をつぐみ目を反らす

「タイミングからして、目的は…基地の占領、ですな?」

「……」

「あの基地をよい状態のまま占領し武器生産に利用しようとした。違いますか?」

ギルモア博士の淡々とした口調に代表者は観念したようにフッと息を吐いた

「あなた方の通信を勝手に傍受したことは謝罪します。が、我々も必死なのです。戦況を有利にするため国の戦力を強化しようとするのは当然の行動です。結果的には敵によって破壊されてしまいましたが…」

代表者は残念そうに小さく笑った。

「…今回の傍受については我々に対してまだ信用がなかったからと考え目をつぶりましょう。しかし今後は控えていただきたい。傍受による情報拡散は敵に知られるリスクに繋がります。」

博士の冷静な雰囲気に圧倒されながらも代表者は博士を見た

「…了承しました。ただ、私が聞きたい質問、知りたい情報には答えて頂きたい。口頭で構いません。あなた方がしていることを報告してください。我々は戦争の当事者だ。知る権利はあるはずです。」

代表者の申し出に博士はニッコリ笑って右手を差し出した

「もちろんです。一刻も早く戦争を終わらせましょう。そのために我々は来たのですから」

代表者はしばらく考え、余裕の無い自分を恥じるようにゆっくり首を振ると穏やかに笑った

「あなた方を信じます。どうか我々を救ってください」

互いに頷くと二人は握手を交わした。


***


その日の夜

ドルフィン号の一室の簡易ベッドに002は両手を頭に回し仰向けになっていた。表情は暗く悲しそうに目を閉じる

『スカール様を傷つけるのは許さない』

ティズに言われたことが何度もループし自問を繰り返した。

「ジェット、入るよ」

廊下に繋がる油圧式の扉から009の声がして、ほどなく扉が開いた

「009」

「…二人の時は名前で呼ぶ約束だろ」

「……すまん。ジョー」

002はベッドから起き上がり横にずれた。空いたスペースに009は座らず、横に立つ

「……情けない話だ。完全に自分を見失ってた。」

「…僕だって、形に惑わされないって言ったのに攻撃どころか弾丸からかばっていた」

今日を省みる静かな会話が続く

「彼は似すぎている。そして、回収に来たスカールの必死な様子…」

009は眉間にシワを寄せ話を続ける

「恐らくティズはJに似せて改造された。スカールのエゴのために」

002は一瞬目を見開きフッと悲しそうに笑った

「あの子供たちが、ティズがサイボーグなんて皮肉な話だ。Jの模倣に利用されてるのにJより人間に近いなんて、」

「ジェット」

009は横に座るとそっと002の肩をさすった。ボロボロ涙を流す002は顔をそらしたが009に抱き寄せられ耐えきれず胸に顔を埋めず泣いた

「許さねぇ…スカールは絶対にやっちゃならないことをしたんだ…」

「………戦争を終わらせよう。それが僕らにできる最善のことだ」

009は002の背を擦りながら優しく髪を撫でた



A国もB国も平等に日は暮れていく

地平線に太陽を見送り夜が訪れる

星空に浮かぶ月は昨日より欠けていた
繰り返す日々は確実に前に進んでいると示すように

002はドルフィン号でティズはBG本拠点で

昇りやがて傾き消えていくであろう月を眺めた



つづく

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