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兵士さまは今に至る経緯を話してくれた

「…働き蟻たちの列を食糧運搬部隊を護衛していたんだが、さっきの数匹がはぐれてしまったんだ、駆けつけたときはもうダメだった。」

とても残念そうな口調とは裏腹に表情は差ほど変化が伺えない

兵士さまはアタシに笑顔で視線を送り

「お前は見たところ別の部隊のようだな。担当は?」

親しみやすい口調で投げかけた

アタシは涙目をぐしぐし擦ってシャンとしてからスッと立ち上がり質問に答える

「はい…アタシは働き蟻21533号…今は食糧捜索部隊です」

「…呼び名は?」

顔を寄せる兵士さまにアタシは驚いて一歩下がった

「お…お教えするほどの身分ではありません」

「知りたいのだ…ダメか?」

「あ…アタシは」


言いかけた時

「ニィコー!!」

遠くからイアンの声がした

「イアン!」


アタシは涙が出るほど安心して走ってくるイアンに抱きついた

「今、蟷螂が飛び去ったのが見えて…心配したんだから!!」

「兵士さまが助けてくれたの」

「兵士さまが?」

イアンは視線を兵士さまに向けた

何だか驚いてる様だったけどアタシには理由が分からなかった


「ニィコか、良い呼び名だな。また会えたら話をしよう。では、無事で帰れよ」

「あ…」

兵士さまはそれだけ言うと仲間たちの屍を越えて働き蟻たちの列があるであろう道の先に歩いていってしまった


***


アタシは兵士さまを見えなくなるまで見送って、イアンと一緒に食糧捜索に戻った


結局

収穫はあまりなかったが途中テントウ虫に襲われていたアブラ虫を2人がかりで助け蜜をもらうことが出来た


蜜を抱えての帰り道でイアンが口を開いた

「やっぱり変だわ!」

「な、なによいきなり」

驚くアタシにイアンはキッと睨むように振り向いて

「ニィコは知らないみたいだけど、本来兵隊蟻はあんな状況下で、しかもたった数匹の働き蟻を助けに来たりしないわ。あまりにも危険だから見捨てるのが普通なのよ」

「え」


―…そんな事ない!アタシを助けてくれたもの!…―


そう言いたかったけど

兵士さまが仲間の屍の間を何の躊躇もなく通り過ぎて行った姿を思い出し、言葉を噤(つぐ)んだ

「ニィコ、兵隊蟻には関わらない方がいいよ、あのひと達は私たち働き蟻とは根本的に違う」


イアンの忠告を聞く傍らで

アタシは兵士さまが危険を冒してまで助けてくれた理由を考えていた

無論答えは分からない


「…アンジェリカ…さま」


アタシの頭は兵士さまの名前と容姿を鮮明に記憶していて


忘れることが出来なかった






つづく

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