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…アタシ 死ぬの?…


そう思った瞬間



「うるぁああ!!」

何かに包まれて強く抱きしめられると横の茂みに回避した

刹那

アタシはスローな世界の中でさっきまで立っていた場所に鎌が下ろされ地面をえぐっているのを目の端で見た


「うぐっ!」

サザッと砂を舞い上げて地面に倒れ込む

抱きしめられていたアタシはほとんど無傷だった

「はぁ…はぁ…無事か働き蟻!!」

降ってきた声は凛と低い声をしていたが同時に女性らしくもあった

「はっ…はい」

「こっちだ走れ」

アタシは腕を掴まれ立たされると大きく垂れた葉の下に隠れた

「しばらく動くな、このままやり過ごす」

「……」

蟷螂はキョロキョロとしていたがしばらくして殺した仲間たちの亡骸を何匹か掴み頭を貪り始めた

アタシは蟷螂の残虐的な食餌を目の当たりにしてガクガクと身体が震え立つことさえままならない

「あ…あ…ッ…!!…そんな…!!」

涙で視界が滲み気が狂(ふ)れそうになった直後アタシは肩を掴まれて引き寄せられ

「…見ない方がいい。お前は悪くないよ、働き蟻…」

「……」

さっきの命令口調とは違いとても優しい声で慰められた

視界を覆うように優しく抱きしめる腕の感覚にアタシは自分を取り戻していった


「深呼吸しろ…楽になる」

声の指示通り深く呼吸する

顔を寄せた胸元から甘い花の匂いがした

「あなた…は…?」

小声で聞くと

「静かに…話は後だ」

小声で返された



しばらくして蟷螂は気が済んだのかグッと足を軋ませ飛び上がると羽根を広げ飛び去っていった


「…行った…な」

「う…ぅえぇえぇー」

「お、おい…」

アタシは緊張の糸が切れて声を上げて泣き出した

「アタシ何も出来なかった…アタシ…役立たずだ…!!」

気持ちを吐き出しその場にへたり込んだアタシに凛とした声が叱咤(しった)した

「お前は働き蟻だ、たった一匹で蟷螂と戦えるとでも思ったのか」

「…ひく…ぐす」

アタシは黙ってうつむいた


しばらくの沈黙のあと

「…自己紹介が遅れたな、私は兵隊蟻2569号、呼び名はアンジェリカだ」

彼女は自分の身分を明かした

「兵士さま?」

改めて見た彼女はとても綺麗なひとだった


しなやかで屈強な長身の身体、力強い声と精悍な顔立ち

アタシは気づかないうちに見とれていて

兵士さまもアタシを見つめて



アタシたちはしばらく見つめ合った





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