┗3
「すきな…ひと?」
「うん…だから、後悔はしてない。」
「ふぅ…ん」
小さな毒蛾はしばらく黙っていつの間にかポロポロと大粒の涙を流していた
「…毒蛾?」
「あれ…ぇ?」
小さな毒蛾はわけもまわかず涙を流し、だんだんと悲しそうな顔になると声を上げて泣き出した
「ふっふぇええーっ」
「どうし…どっ毒蛾?」
鉄条は泣きやませようとなだめたが小さな毒蛾は泣き続け涙をぐしぐしと手で拭った
「ひくっひっく…うぇ…」
(ど…どうしたもんか…)
鉄条が一瞬小さな毒蛾から目を離すと
小さな毒蛾は
「ごめん、鉄条…」
毒蛾になっていた
「?!」
「ひっく…ごめん…あの時、俺が…あんなことしなかったらっ…俺がお前の右目を潰したんだッ!!」
鉄条は驚いたが未だ泣き続ける毒蛾にそれどころではなく困惑しながらも毒蛾を抱き寄せ慰めつづけた
「もういいんだ…いいんだ毒蛾…」
抱きしめた鉄条の腕を毒蛾はギュッと握り返した
「…―から…俺が右目になるから!!」
「……毒蛾」
毒蛾を抱き寄せたまま鉄条は不意に周りを見た。見慣れたスラム街は消えてゆき霞が辺りを包み始めていた
「………そうか!!…ここは―」
―夢の中―
鉄条がそう言い終える前に二人は目を覚ました
***
『キノコ!キノコ!キノコ!キノコ!キノコ!』
壁掛けの時計が朝を知らせた。いつもは驚いて飛び起きるはずの毒蛾がその時はボーっと天井を見ていた
「…俺…泣いていた…?」
さっきまで視ていた夢を思い返そうとするも記憶は薄らいでゆきほとんど思い出せなくなっていた
(鉄条が…出てきたような…だめだ思い出せない…)
煙の屋敷内の廊下を考えながら歩いていると鉄条に出くわした
「おっおはよう」
「……ん」
毒蛾はなんとなく鉄条の顔を見れないまま今朝視た夢の話をした
「ああ、俺も夢視たぜ。なんか…毒蛾が出てきた!」
「本当か?」
2人は視た夢について話したが大部分を忘れていたので話は途中で終わった
「ま、とりあえず、今日も仕事しないとな。」
鉄条はそう言うと廊下を歩き出した
「……」
毒蛾は鉄条の後ろ姿に向かって何気なく
「…ぁりがとう」
小さくお礼を言った
毒蛾の中でフッと温かい気持ちが込み上げ自然と微笑んだ
お礼を言った毒蛾の声は小さくて、鉄条には聞こえなかった
鉄条はそうゆうことにした。
◇…end…◇
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