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鉄条と小さな毒蛾は一休みするために大通りの片隅で壁に寄りかかり立っていた。小さな毒蛾は鉄条が買ったハンバーガーを頬張りながら食べて時々胸を叩いた
「んぐ!」
「ほら、急いで食べたら詰まるよ」
鉄条はクスッと笑って片手に持っていたジュースを差し出した
「…ゴクンッ…ぷは」
(お腹空いてたんだな…)
小さな毒蛾はジュースを飲んでまたハンバーガーを食べ始めた
(…やはり…ここは『過去』の世界なのだろうか)
少年時代過ごしたスラム街。となりには小さな毒蛾
鉄条は『時間系』魔法を使う魔法使いが存在していたという新聞記事を思い出した
(存在すら分からなかった魔法があると分かった以上、否定する理由はないよなぁ…)
鉄条は渋い顔をして腕を組んだ
「お兄さんどこか痛いの?」
ハンバーガーを食べ終わり口にケチャップをつけた小さな毒蛾は小首を傾げて訪ねた
鉄条は小さな毒蛾を見下ろしてニコッと笑った
「大丈夫。ありがとう」
鉄条はポケットからボロのハンカチを出して少しかがむと小さな毒蛾の口を拭った
「お兄さんここらじゃ見ない顔だね…周辺のこと教えてあげる!」
「え、あ…うん。お願いしようかな」
小さな毒蛾は鉄条にスラム街を案した。けして綺麗ではないが賑やかな街の大通り、細くて入り組んで死んだように静かな裏路地。時々見かける見覚えのある魔法使い
。鉄条にとってはどこも懐かしく小さな毒蛾が場所場所を説明する度笑顔でうなずいた
「そうだ…こんな時代があったんだよな…」
鉄条は穏やかな顔でビル間に見える空を仰いだ
「お兄さん?」
小さな毒蛾は鉄条の服の裾をつかみ首を傾げた
「何でもないよ」
鉄条は少しだけ潤んだ瞳で優しく笑うと小さな毒蛾の頭を撫でた
***
「もうすぐ日が暮れるね…」
西の空は赤く夕陽を称え濃い青が世界を包み始めていた
「今日は楽しかったよ。」
鉄条は小さな毒蛾と同じ目線になるようにその場に屈んで頭を撫でた
「お兄さん…」
小さな毒蛾は鉄条の右目を触った
「!」
「…傷」
「ずっと気になってた…?」
鉄条が聞くと小さな毒蛾はしっかり頷くと悲しそうな眼でじっと右目の傷跡を追った
「たてに…切れてる…どうしてケガしたの?」
問いかけに鉄条は口元だけ微笑んで
「好きな人を守りたくて。」
そう短く答えた。
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