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鉄条が子供の姿になって数日

魔法が解ける気配はなく鉄条は留守番を1人で任されるようになっていた

「いってらっしゃい」

「戸締まりしっかりな」

買い物に行く佐治を見送って鉄条はドアを閉めると鍵をかけ台所へ向かった。今日の鉄条はキッズメットはそのままにブカブカの黒いTシャツと腰がユルユルのショートパンツを着ていた。豚の見つけたお古は洗濯されて外で干されている

1人で留守をあずかるようになってからは護身用にサバイバルナイフを紐でくくり腰背面のベルト穴に固定している。ナイフの重さでパンツが時々下がりその度に上に引っ張ってずり落ちを直した

(合うベルトがあればなぁ…)

鉄条は台所に着くとパンツを正してから木の端材で出来た即席の踏み台に乗って洗ってあった炊飯器の釜を取り出し米と水を入れると米を研ぎ始めた。

鉄条しかいない台所にシャコシャコと米を洗う音が響く。四回ほど洗いすすぐと目盛り通りに水を入れて釜を炊飯器にセットし蓋を閉めた

『ピッ。ピッピッ』

早炊きを選択ししばらくして加熱が始まった

「よっし。炊飯終わりっ」

鉄条はタッタと台所を出て庭の洗濯物を取り込むための準備を始めた。庭で干して乾いた服を取り込んでいる最中

「…ただいま」

「あ、おかえり」

白アリ退治の旗を担いだ毒蛾が帰ってきた

「服取り込んでるのか。手伝うか?」

背伸びをしてかろうじて干された服に手が届く状態だった鉄条は毒蛾へ振り向くと困ったように笑って

「あぁ、頼むよ」

服の取り込みを手伝ってもらうことにした

家の壁に旗を立てかけその下に荷物を置いて毒蛾は鉄条と並んで乾いた服を物干しからカゴへ入れていった

「すっかり慣れたみたいだな…その体」

「んー…いや。やっぱり不便だ。さっき米研いでたけど、かなり時間かかるし今も高いところに手が届かない。…ごめんな毒蛾、仕事帰りなのに」

申し訳無さそうな顔で口元だけ笑って鉄条は見上げる

「…その姿で遠慮されるとなんだか変だな。子供っぽく笑った方が可愛いのに」

毒蛾はしばらく見つめ率直に意見を述べて聞いた鉄条はキョトンとしてちょっと照れてプンッと怒った

「か、可愛いとか言うな。恥ずかしいだろ」

鉄条は照れたまま取り込んだ服を入れたカゴを持って玄関に向かい毒蛾は置いておいた旗と荷物を持って後に続いた

(…本当に可愛い………ああ、そうだ…昔の鉄条は…あんなに小さかったんだ…)

鉄条の小さい背中を見て毒蛾は急に胸が苦しくなった


***


取り込んだ服をたたみ終えて2人は並んでテーブルについて紅茶を飲んでいた

「みんな今頃仕事中かなぁ…佐治も買い物遅いし…」

鉄条は暇を持て余すように足をプラプラさせて上を向いた

「…」

毒蛾はその姿を静かに見つめる。その視線に鉄条が気づいた

「毒蛾?」

毒蛾はおもむろに鉄条のキッズメットに手をかけそのまま脱がした

「…髪がボサボサだな」

メットの下から露出した乱れた髪を撫でて少し整えた

「……ぅー」

鉄条は照れ臭いのか直視できずテーブルに置かれたメットを見た

「……」

毒蛾は眉間にシワを寄せて鉄条を自分に向かせた

「ん?」

「ソレ…被ってた方が落ち着くのか?」

「え、うん…まぁ……」

鉄条は質問の意図をしばらく考え体ごと毒蛾に向いて

「キッズメット被らない方がいいのか?」

直接的な質問で返した

「……ッ」

毒蛾はどう答えたらいいのかとうつむいた

「…毒蛾が嫌なら、もう被らないよ?」

押し黙る毒蛾に代わり鉄条が話しかける

「…」

「メット似合わないかな…」

鉄条が苦笑いすると毒蛾は少し首を振った

「いや……違う…そうじゃない…そうじゃないけど」

「けど?」

「…」

毒蛾は唇をキュッとむすんで鉄条に向き直るとしばらく見つめた

「…?……??」

鉄条が首を傾げると毒蛾の手がそっと頬に伸びてきた。柔らかく薄ら色づいて血色が良い頬…

その傷一つない幼い顔は右目の傷をよりいっそう際立たせた

「鉄条は…あの日のこと…思い出す…?」

「…あの日?」

「この傷を…負った日のこと…」

悲しそうな目で鉄条を見つめる毒蛾の声は少しだけ震えていた

「!………」

鉄条は一瞬驚いて質問をゆっくり飲み込むようにスッと眼を閉じた

「思い出さないと言ったら、嘘になる。でも何て事はない、他の思い出と同じだよ」

鉄条は前を向き毒蛾を見た

「俺は毒蛾を守れてよかったと思ってる。あの時したことは正しかったと思う」

「……」

何も言えない毒蛾に鉄条は手を伸ばし頬を撫でる

「だから、泣かないで…」

毒蛾は言われて初めて自分が泣いていることに気づいた

「…ッ」

「毒蛾の顔に傷ができなくて、本当によかった…何度もそう思った」

鉄条の表情は穏やかで容姿に似つかわしいない落ち着いた雰囲気を醸し出す

「だから、気に病む必要はな」
「そんなことないっ」

鉄条の慰めを毒蛾は遮った




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